他のメモへのリンク集。リンク集を飛ばして、このページの前書きへ。本文の目次へ。21、22などの数字は、メモの番号です。
![]()
『遊びの数論57』の続き。再びガウス和の研究。ヤコビ記号との関連性の議論は、正直ちょっと退屈にも思えたのですが、歩いてみたことで新たな景色が垣間見えてきて、結果的には少しワクワク…
このページの内容は、おおむね Dirichlet–Dedekind の『整数論講義』補遺1に沿ってます(ただし出発点となる「ガウス和の符号」に関しては、既に別ページで2通りの初等的証明を記していることもあって、 Dirichlet 版を引用せず、既知として話を進めます)。「n が偶数の場合から n が奇数の場合」は『整数論講義』の §113, §114。「ガウス和とヤコビ記号・前編」は §115 前半。「相互法則の第四証明」「第一補充法則」「第二補充法則」は §115 後半。「中編」「後編」は §116。
「マイナーな定理」は(Dirichlet ではなく)ガウスの Summatio からの紹介。
「ヤコビ記号について」は復習コーナーのようなもの。 ∑ や ∏ をゴチャゴチャ使う教科書の証明法に対抗して、最小構成的にまとめてみました。
途中で Berndt たちの良書『Gauss and Jacobi Sums』を発見。「Hua のオリジナルなのだろうか」と疑問に思っていた印象的な符号決定法は、 Estermann によるアイデアだったと判明。

![]()
2026-04-07 平方剰余の相互法則: ガウスの第四証明
ガウスは、平方剰余の相互法則の証明を8種類も残した(生前に公表されたのは六つ)。そのうち、ガウス和に基づく第四証明は、「もし」ガウス和の符号が既に決定されているのなら、最も簡明で見通しが良い(この「もし」が大問題だが、ここでは符号は決定済み、としよう)。
Dirichlet の整数論講義(Dirichlet の講義をまとめたもの。実際の著者は Dedekind)のバージョンを紹介したい。
第四証明 Dirichlet バージョンの最大の特色は、ガウス和の符号決定に解析的手法を使っている点(ここでは「符号は既に決定済み」として話を進めるので、その部分には立ち入らない)。相互法則を証明する部分についても、文章でおっとり説明しているガウスの Summatio と対照的に、式を使って端的に記述されている。
![]()
n を任意の正整数、 h を任意の(正または負の)整数とする。 1 の n 乗根
exp (2hπi/n) = cos (2hπ/n) + i sin (2hπ/n)
に対応するガウス和を
∑{for ν mod n} exp [ν2⋅(2hπi/n)]
によって定義し、 S(h, n) で表すことにする。 ν は mod n において不合同な n 種類の整数値――いわゆる「剰余系の代表の一組」――にわたる。例えば ν = 0, 1, 2, ···, n − 1 でもいいし、 ν = 1, 2, ···, n でもいい。ガウス和の値は、代表の一組の選び方に依存しない。
Dedekind は記号 φ(h, n) を使い、 Nagell を含む若干の著者はこの表記を踏襲しているが、ここでは文字 φ の代わりに S を使う。他のメモでは、同じことを Sn(h) の形式で表記していることもある。
![]()
第四証明は、ガウス和の幾つかの性質に基づく。最も基本的なのは、次の事実: h = 1 かつ n が奇数の場合、もし n が 4k + 1 型なら、つまり n ≡ 1 (mod 4) なら、
S(1, n) = √n
が成り立ち、もし n が 4k + 3 型なら、つまり n ≡ 3 (mod 4) なら、
S(1, n) = i√n
が成り立つ(i = √(−1) は虚数単位)。この二つをまとめて、
n が奇数 ⇒ S(1, n) = Jn √n ‥‥①
と書くことができる。ただし mod 4 において、もし n ≡ 1 なら Jn は 1 に等しく、もし n ≡ 3 なら Jn は i に等しい、と約束する。
第二に、正整数 m, n が互いに素なら、 1 の mn 乗根に関連するガウス和について、
S(h, mn) = S(hm, n) S(hn, m)
が成り立つ。特に h = 1 なら:
S(1, mn) = S(m, n) S(n, m) ‥‥②
第三に、 p が 3 以上の素数で h が p の倍数以外の整数のとき、次が成り立つ(二つ目の等号は①による):
S(h, p) = (h/p) S(1, p) = (h/p) Jp √p ‥‥③
これで相互法則の証明の準備が整った。
今 p, q を相異なる正の奇素数とすると、②③から:
S(1, pq) = S(p, q) S(q, p) = (p/q) Jq √q × (q/p) Jp √p
上の左辺は、①から Jpq √(pq) に等しい。従って:
Jpq √(pq) = (p/q) Jq √q × (q/p) Jp √p
両辺を正の実数 √(pq) で割って、整理すると:
Jpq = Jp⋅Jq⋅(p/q)(q/p) (✽)
(✽)は、平方剰余の相互法則を含意する。実際、 mod 4 において、〔ア〕もし p, q がどちらも ≡ 1 なら pq も ≡ 1 なので J 記号の定義から Jp = Jq = 1 かつ Jpq = 1 であり、(✽)は
1 = 1⋅1⋅(p/q)(q/p) = (p/q)(q/p)
となるが、これは右辺の 2 種類の Legendre 記号の値がどちらも +1、またはどちらも −1 であることを含意する(さもなければ二つの Legendre 記号の積は = 1 になり得ない)。一方、〔イ〕もし p, q の一方が ≡ 1 で他方が ≡ 3 なら pq ≡ 3 なので、(✽)は
i = 1⋅i⋅(p/q)(q/p)
となるが、その両辺を i で割れば、 p ≡ q ≡ 1 の場合と全く同じ結論に至る。最後に、〔ウ〕もし p, q がどちらも ≡ 3 なら pq ≡ 9 ≡ 1 なので、(✽)はこうなる:
1 = i⋅i⋅(p/q)(q/p) = −(p/q)(q/p)
両辺を −1 倍して:
−1 = (p/q)(q/p)
これは、右辺の二つの Legendre 記号の値が一致せず、どちらか一方が +1 で他方が −1 だ、ということを含意する。
〔ア・イ・ウ〕を要約すると: 「奇素数 p, q の少なくとも一方が 4k + 1 型なら、
(p/q) = (q/p)
となるが、 p, q が両方とも 4k + 3 型の場合に限っては、
(p/q) = −(q/p)
となる。」――この事実こそ、まさに平方剰余の相互法則であり、伝統的には一つの式
(p/q) = (−1)(p−1)(q−1)/4 (q/p)
にまとめて、表現される。あるいは、同じことだが:
(p/q)(q/p) = (−1)(p−1)(q−1)/4
第四証明とは、たったこれだけのことなのだ! 第三証明では、ガウスの補題を準備してもその先がなかなか大変だが、対照的に、ガウス和についての基本性質が解明されていれば、第四証明は、ほとんど一瞬で終わってしまう。
![]()
Dirichlet は J 記号による場合分けを行わず、機械的な式変形だけで証明を完成させた(Dedekind の記述もそれに基づく)。以下、そのバージョンを記す。具体的には、 Jp の代わりに
i(p−1)2/4 ‥‥④
と書くことができ、その表現は Jp と同じ働きを持つ(ここでは p を奇素数に限っているが、④の表記自体は、任意の正の奇数 p に対しても有効)。実際 p ≡ 1, 3 (mod 4) のとき、それぞれ p − 1 ≡ 0, 2 (mod 4)、従って:
(p − 1)2 ≡ 0, 4 (mod 16)
両辺を 4 で割ると:
(p − 1)2/4 ≡ 0, 1 (mod 4)
すなわち p が mod 4 で ≡ 1 か ≡ 3 かに応じて、 i(p−1)2/4 は 1 ないし i に等しい(Jp の定義と一致)。任意の整数 A について、 iA の値は A (mod 4) によって決まるから。
このように事実としては④は望ましい性質を持つのだが、どこからどうやって④の表現が出てきたのか、必ずしも明らかではない。一つの解釈として、与えられた奇数 p に対応する次の積に、④の起源を求めることができる:
iN = i1⋅i3⋅i5···ip−2 ☆
右辺の因子の i の肩の指数たちは、 1 以上 p 未満の各奇数にわたる。右辺の左端から因子を順に二つずつ取り出すと、各ペア(二つの因子)の積は i の「4 の倍数」乗、つまり 1 に等しい。ゆえに iN は、☆の右辺の因子が偶数個あれば 1 に等しく、奇数個あれば ip−2 に等しい。ところで 1 から偶数 p − 1 までの整数のうち、ちょうど半数の (p − 1)/2 個が奇数なので、☆の右辺の因子の個数は、〔ア〕 p が 4k + 1 型なら偶数(2k)で、〔イ〕 4k + 3 型なら奇数(2k + 1)。ゆえに〔ア〕の場合、 iN は 1 に等しく、〔イ〕の場合、 iN は ip−2 に等しい。〔イ〕では p ≡ 3 (mod 4) なので p − 2 ≡ 1 (mod 4)、従って ip−2 = i。結局 p が mod 4 において ≡ 1 か ≡ 3 かに応じて、 iN は 1 ないし i に等しい――これは望ましい性質だ。さて、☆の右辺の指数たちの和は、
N = 1 + 3 + 5 + ··· + (p − 2)
= [1 + (p − 2)] × (p − 1)/2 × 1/2 = (p − 1)2)/4
であるから、④は iN に他ならない。上記の観察が④の根拠、ともいえる。
![]()
④を利用すると、 J 記号を使わず基本演算だけを使って(✽)と同じことを表現できる:
i(pq−1)2/4 = i(p−1)2/4⋅i(q−1)2/4 × (p/q)(q/p)
∴ (p/q)(q/p) = i(pq−1)2/4 ÷ i(p−1)2/4 ÷ i(q−1)2/4
この右辺を整理したものを = iλ とすると:
λ = (pq − 1)2/4 − (p − 1)2/4 − (q − 1)2/4 ‥‥⑤
= (1/4)[(p2q2 − 2pq + 1) − (p2 − 2p + 1) − (q2 − 2q + 1)] ‥‥⑥
つまり (p/q)(q/p) = iλ が成り立つ。この表現が、平方剰余の相互法則の伝統的表現
(p/q)(q/p) = (−1)(p−1)(q−1)/4
と同値であることを示せば、 J 記号を使わずに証明は終わる。要するに、
iλ = (−1)(p−1)(q−1)/4
を示したい。
式⑥において p と q の役割は対称的なので、 [ ] 内を p についての2次式と見ることもできるし、 q についての全く同じ形式の2次式と見ることもできる。仮に q についての多項式として整理すると:
λ = (1/4)[(p2 − 1)q2 + (2 − 2p)q − (p2 − 2p + 1)]
= (1/4)[(p + 1)(p − 1)q2 − 2(p − 1)q − (p − 1)2]
= [(p − 1)/4][(p + 1)q2 − 2q − (p − 1)]
この多項式は p, q について対称的なので、上記のように因子 p − 1 を持つから、因子 q − 1 も持つはず(実際 q = 1 と置くと、上の式の値は 0 になる)。右側の [ ] 内を p についての多項式として再整理すると:
λ = [(p − 1)/4][(q2 − 1)p + (q2 − 2q + 1)] = [(p − 1)/4][(q + 1)(q − 1)p + (q − 1)2]
= [(p − 1)(q − 1)/4][(q + 1)p + (q − 1)]
p − 1, q − 1 はいずれも偶数なのでそれらの積は 4 で割り切れ、上の表現は整数値を持つ。
われわれが知りたいのは λ そのものではなく iλ なので、 λ を mod 4 で考えれば十分。ところが:
(q + 1)p + (q − 1) ≡ 2 (mod 4) ‥‥⑦
なぜなら mod 4 において p, q はそれぞれ ≡ 1 または ≡ −1。もし q ≡ 1 なら、⑦左辺は ≡ (1 + 1)p + (1 − 1) ≡ 2p ≡ 2(±1) ≡ 2。一方、もし q ≡ −1 なら、⑦左辺は ≡ (−1 + 1)p + (−1 − 1) ≡ −2 ≡ 2。
従って λ は mod 4 において、次の整数と合同:
[(p − 1)(q − 1)/4]⋅2 = (p − 1)(q − 1)/2
ゆえに iλ = i(p−1)(q−1)/2 が成り立ち、その右辺に i = (−1)1/2 を代入して、
iλ = [(−1)1/2](p−1)(q−1)/2 = (−1)(p−1)(q−1)/4
を得る。∎
![]()
1. 第四証明は、結局、
λ = (pq − 1)2/4 − (p − 1)2/4 − (q − 1)2/4 ‥‥⑤再掲
が iλ = (−1)(p−1)(q−1)/4 を満たすという事実を示すことに帰する。その部分に関して、上記⑥以下の議論は、あまり見通しが良くない。
Dirichlet–Dedekind, §115 では、この部分が、おおむね次のように扱われている。
(p2 − 1)(q2 − 1) = p2q2 − p2 − q2 + 1
という関係を使うと、⑤から:
4λ = (p2q2 − 2pq + 1) − (p2 − 2p + 1) − (q2 − 2q + 1)
= (p2 − 1)(q2 − 1) − 2pq − (−2p + 1) − (−2q + 1)
= (p2 − 1)(q2 − 1) − 2(pq − p − q + 1)
= (p2 − 1)(q2 − 1) − 2(p − 1)(q − 1) ‥‥⑧
= (p − 1)(q − 1)⋅[(p + 1)(q + 1) − 2]
∴ λ = (p − 1)(q − 1)/4⋅[(p + 1)(q + 1) − 2] ‥‥⑨
p + 1 と q + 1 はどちらも偶数だから両者の積は 4 の倍数、よって⑨の [ ] 内は ≡ 2 (mod 4)。従って:
λ ≡ (p − 1)(q − 1)/4⋅2 ≡ (p − 1)(q − 1)/2 (mod 4)
∴ iλ = i(p−1)(q−1)/2 = (−1)(p−1)(q−1)/4 ∎
Berndt たちは、さらに簡潔なショートカットを使っている†。 p, q は奇数なので (p2 − 1)(q2 − 1) は 64 の倍数。よって⑧は、
4λ ≡ −2(p − 1)(q − 1) (mod 16)
∴ λ ≡ −(p − 1)(q − 1)/2 (mod 4)
を含意する。このことから、直ちに:
iλ = i−(p−1)(q−1)/2 = (−1)−(p−1)(q−1)/4 = (−1)(p−1)(q−1)/4 ∎
2. Dirichlet の原論文では、⑤を次のように変形して、目的を達成している‡:
λ = (1/2)(p − 1)(q − 1) + (p − 1)(q − 1)((p + 1)/2⋅(q + 1)/2 − 1) ‥‥⑩
⑩の右辺第2項について「4 の倍数なので mod 4 においては無視可能」と指摘するだけで、証明は終わる。途中計算は記されてないが、 iλ が
(−1)(p−1)(q−1)/4 = i(p−1)(q−1)/2
に等しいことが予期されるので、 λ から (p − 1)(q − 1)/2 を引けば、残りは 4 の倍数になるはず。実際、⑨から:
λ − (p − 1)(q − 1)/2 = (p − 1)(q − 1)/4⋅[(p + 1)(q + 1) − 2 − 2]
この右辺 [ ] 内は明らかに 4 の倍数。右辺を変形し、⑩の右辺第2項を得る。
† Berndt & Evans & Williams (1998), Gauss and Jacobi Sums, p. 16
‡ https://archive.org/details/abhandlungenderk1835deut/page/n882/mode/1up
(q/p), (p/q) の値がそれぞれ文字 δ, ε で表されている。
![]()
紹介した証明は Dirichlet の1835年の論文に基づいて、 Dedekind が執筆したもの。 Gauß 自身による第四証明(1811年)と本質的には同内容だが、さらにすっきりと整理されている。
Dedekind は、この証明の前置きとして auf ganz einfache Weise
と述べている。実際、(ガウス和が導入済みなら、という前提での話だが)ガウス和経由の証明は、第三証明・第一証明などと比べると、単純明快と感じられる。
一方、相互法則を古典数論の問題のように扱う第一証明・第三証明では、「証明できるけど、なんだかよく分からない」という割り切れなさが残る。本来、平方剰余の相互法則は二次体の代数的整数の性質なので、古典数論の範囲で片付けようとすると、かえって見通しが悪くなるのだろう。
![]()
〔参考文献〕
(1) Dirichlet–Dedekind の整数論講義の「補遺1」(§111–116):
Dirichlet–Dedekind. Vorlesungen über Zahlentheorie
第2版(1871年)
https://gdz.sub.uni-goettingen.de/id/PPN30976923X?tify=%7B%22pages%22%3A%5B301%5D%2C%22view%22%3A%22%22%7D
第4版(1894年)
https://archive.org/details/vorlesungenber00lejeuoft/page/287/mode/1up
(2) 基となる Dirichlet の論文(1835年):
Dirichlet (1835), “Über eine neue Anwendung bestimmter Integrale auf die Summation endlicher oder unendlicher Reihen”, Abhandlungen der Königlichen Akademie der Wissenschaften zu Berlin, 1835 (1837), 391–407
https://archive.org/details/abhandlungenderk1835deut/page/n866/mode/1up
Werke I, 237–256
https://www.e-rara.ch/zut/content/zoom/5612846
cf. “Sur l'usage des intégrales définies dans la sommation des séries finies ou infinies”, Crelle, Bd. 17 (1837), 57–67
https://gdz.sub.uni-goettingen.de/id/PPN243919689_0017?tify=%7B%22pages%22%3A%5B61%5D%2C%22view%22%3A%22%22%7D
Werke I, 257–270
https://www.e-rara.ch/zut/content/zoom/5612866
![]()
2026-04-09 第四証明と第二補充法則
第四証明への付記としての第二補充法則。 Gauß 自身の論法も、 Dirichlet–Dedekind も、
S(1, 8p) = S(8, p) S(p, 8) (✽)
に基づく。ここで p は正の奇素数。 S(k, n) は 1 の原始 n 乗根 e2πik/n に関連するガウス和。
ガウス和の定義から:
S(p, 8) = e0⋅πip/4 + e1⋅πip/4 + e4⋅πip/4 + e9⋅πip/4 + ··· + e49⋅πip/4
= 1 + (eπi/4)p + (−1)p + (eπi/4)9p + ···
p は奇数なので第3項は −1。 eπi/4 = i1/2 は 1 の原始8乗根なので、その累乗 (eπi/4)N の値は N mod 8 によって決まる。例えば p ≡ 9p (mod 8) なので、上記の和の第2項と第4項は等しい。従って:
S(p, 8) = [1 + (eπi/4)p + (−1) + (eπi/4)p] + [1 + (eπi/4)p + (−1) + (eπi/4)p] = 4(eπi/4)p = 4(i1/2)p
前半の4項の和と後半の4項の和が等しいことは、 ∑ exp (x2⋅πip/4) において、 x = 0, 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7 の代わりに x = 0, 1, 2, 3, 4, −3, −2, −1 を使えば、明らか。
ゆえに mod 8 において(定理38の補足参照):
p ≡ 1 ⇒ S(p, 8) = 4(i1/2)1 = (1 + i)√8
p ≡ 3 ⇒ S(p, 8) = 4(i1/2)3 = (−1 + i)√8
p ≡ 5 ⇒ S(p, 8) = 4(i1/2)5 = (−1 − i)√8
p ≡ 7 ⇒ S(p, 8) = 4(i1/2)7 = (1 − i)√8
【1】 ガウスの論法(Summatio, §34)は、場合分けによる。(✽)から:
S(1, 8p)/S(p, 8) = S(8, p) = (8/p) S(1, p) = (2/p) S(1, p) (✽✽)
4 は平方数なので (4/p) は 1 に等しく、従って (8/p) = (2/p)(4/p) = (2/p)。
i1/2 = (1 + i)/√2 なので 1 + i = (i1/2)⋅√2 が成り立つ。その点に留意すると、(✽✽)の左辺の分子 S(1, 8p) は
(1 + i)√(8p) = (i1/2)⋅√2⋅√(8p)
に等しく、分母 S(p, 8) は
4(i1/2)p = (i1/2)p⋅√2⋅√8
に等しい(定理38の補足)。よって分数の値は、
(i1/2)⋅√2⋅√(8p) ÷ (i1/2)p⋅√2⋅√8 = (i1/2)1−p⋅√p
であり、すなわち p ≡ 1, 3, 5, 7 (mod 8) に応じて (i1/2)A⋅√p において A = 0, −2, −4, −6 としたもの、言い換えれば iB⋅√p において B = 0, −1, −2, −3 としたものに当たる。つまり:
√p, −i⋅√p, −1⋅√p, i⋅√p
これが (2/p) S(1, p) に等しい。対応する S(1, p) の値は、それぞれ
√p, i√p, √p, i√p
なので、結局 p ≡ 1, 3, 5, 7 (mod 8) に応じて:
(2/p) = +1, −1, −1, +1
コメント S(1, 8) と S(7, 8) の実部が正で S(3, 8) と S(5, 8) の実部が負である点に、第二補充法則の萌芽がある。(✽✽)の分子の偏角は π/4 であり、分母の偏角は、もし S(p, 8) = S(3, 8) なら 3π/4 で、もし S(p, 8) = S(5, 8) なら 5π/4 なので、これら二つのケースにおいては (2/p) S(1, p) の偏角は、それぞれ −2π/4 と −4π/4、つまり −π/2 と −π。対応する S(1, p) の偏角はそれぞれ π/2 と 0 なので、結局どちらの場合も、 (2/p) の偏角は −π になる。
【2】 Dirichlet–Dedekind, §115 では、同じことが数式で整理されている。 S(1, 8p) = S(8, p) S(p, 8) は、
i1/2⋅√2⋅√(8p) = (2/p)⋅i(p−1)2/4⋅√p × (i1/2)p⋅√2
つまり i1/2 = (2/p)⋅i(p−1)2/4 × (i1/2)p
を含意。両辺を i1/2 で割って:
1 = (2/p)⋅i(p−1)2/4 × (i1/2)p−1 = (2/p)⋅iλ ‥‥⑪
ここで:
λ = (p − 1)2/4 + (p − 1)/2 = (p − 1)(p − 1)/4 + (p − 1)⋅2/4
= (p − 1)(p − 1 + 2)/4 = (p2 − 1)/4
⑪に代入して:
1 = (2/p)⋅i(p2−1)/4 = (2/p)⋅(−1)(p2−1)/8
両辺を (−1)(p2−1)/8 倍して、第二補充法則の標準的表現 (2/p) = (−1)(p2−1)/8 を得る。
![]()
付記 この議論では、 S(p, 8) の p は素数、という仮定は使われていない―― p を任意の奇数 m ≥ 3 に置き換えても、全く同様の議論が成り立つ。理論上、話を Legendre 記号に限定せず、 Jacobi 記号の範囲で考える方が自然だろう。ただしその場合、もし (2/m) = +1 でも、 2 が mod m の平方剰余とは限らない(例えば m = 15)。
![]()
2026-04-10 ガウス和に関連する比較的マイナーな定理
ガウス和経由での第一補充法則の証明に先立ち、 Gauß は一つの補助定理を準備した。 Dirichlet–Dedekind は、はるかに簡単な議論で済ませてるけど、 Gauß のアプローチも味わい深い。 Gauß 自身、「それ自体としても記憶に残る」(=印象的で美しい)とコメントしている。
Gauß は、一見複雑な式を手際よく繊細に処理するのが、本当にうまい。見どころは、
(a1 + a2 + ··· + an)(b1 + b2 + ··· + bn)
の形を露骨に展開して、発生する n2 個の項を軽妙に処理してしまうところ。
![]()
【1】 n を任意の正整数、 r = e2πik/n を任意に選択された《1 の原始 n 乗根》とする。ガウス和
W = S(k, n) = r0⋅0 + r1⋅1 + r2⋅2 + ··· + r(n−1)⋅(n−1)
と、関連するガウス和
W′ = S(−k, n) = r−0⋅0 + r−1⋅1 + r−2⋅2 + ··· + r−(n−1)⋅(n−1)
の積を求めたい。
WW′ = (r−0⋅0 + r−1⋅1 + r−2⋅2 + r−3⋅3 + ⋅⋅⋅ + r−(n−1)⋅(n−1)) W を展開して:
= r−0⋅0 W
+ r−1⋅1 W
+ r−2⋅2 W
+ r−3⋅3 W
︙
+ r−(n−1)⋅(n−1) W ア
ここで W = r0⋅0 + r1⋅1 + r2⋅2 + ··· + r(n−1)⋅(n−1) は n 項の和だが、 r は 1 の原始 n 乗根なので、 rx⋅x の値は x⋅x (mod n) で決まる。もし x⋅x ≡ y⋅y (mod n) なら、 rx⋅x を随意に ry⋅y に置き換えても、値は変わらない。そして x ≡ y (mod n) なら、明らかに x⋅x ≡ y⋅y (mod n)。例えば:
r0⋅0 = rn⋅n イ
r1⋅1 = r(n+1)⋅(n+1) ウ
r2⋅2 = r(n+2)⋅(n+2) エ
等々。従って、次の(それぞれ n 項の)和は、どれも W に等しい:
W = r0⋅0 + r1⋅1 + r2⋅2 + ··· + r(n−3)⋅(n−3) + r(n−2)⋅(n−2) + r(n−1)⋅(n−1) オ
W = r1⋅1 + r2⋅2 + r3⋅3 + ··· + r(n−2)⋅(n−2)+ r(n−1)⋅(n−1) + rn⋅n カ
W = r2⋅2 + r3⋅3 + r4⋅4 + ··· + r(n−1)⋅(n−1) + rn⋅n + r(n+1)⋅(n+1) キ
等々。
カは、オの r0⋅0 をイで置き換えたもの。キは、さらに r1⋅1 をウで置き換えた。
同様に考えれば、一般に任意の整数 A を使って、こう書くことができる:
W = rA⋅A + r(A+1)⋅(A+1) + r(A+2)⋅(A+2) + ··· + r(A+(n−1))⋅(A+(n−1)) ク
【2】 そこで、アの各 W に順にオ・カ・キ…を代入すると、 WW′
= r−0⋅0 [r0⋅0 + r1⋅1 + r2⋅2 + ··· + r(n−1)⋅(n−1)]
+ r−1⋅1 [r1⋅1 + r2⋅2 + r3⋅3 + ··· + rn⋅n]
+ r−2⋅2 [r2⋅2 + r3⋅3 + r4⋅4 + ··· + r(n+1)⋅(n+1)]
︙
+ r−(n−1)⋅(n−1) [r(n−1)⋅(n−1) + rn⋅n + r(n+1)⋅(n+1) + ··· + r(2n−2)⋅(2n−2)] ケ
(最後の行の [ ] 内は、クで A = n − 1 としたもの。)
ケの(n 行の)和について、縦に足し算する。ただし、各行 [ ] 内の各項に、 [ ] の前の r−x⋅x の形の係数を掛けてから、足し算を行う。第1列の各項は
r−x⋅x⋅rx⋅x (x = 0, 1, 2, ···, n − 1)
の形を持ち、それぞれ 1 に等しい。よって、「第1列の和」は n に等しい(各列は、ちょうど n 個の項を含む)。第2列の各項は
r−x⋅x⋅r(x+1)(x+1) (x = 0, 1, 2, ···, n − 1)
の形で、仮に = rB とすると:
B = −x2 + (x + 1)2 = (x + 1)2 − x2 = ((x + 1) + x)((x + 1) − x) = 2x + 1
よって、第2列の各項は rB = r2x+1 = r1⋅r2x の形を持つ。第3列の各項は
r−x⋅x⋅r(x+2)(x+2) (x = 0, 1, 2, ···, n − 1)
の形で、 = rC とすると:
C = (x + 2)2 − x2 = (2x + 2)⋅2 = 4x + 4
よって、第3列の各項は rC = r4x+4 = r4⋅r4x の形を持つ。つまり、
第2列 は r1⋅r2x の形の項の和
第3列 は r4⋅r4x の形の項の和
であり(x = 0, 1, 2, ··· , n − 1):
第2列 = r1⋅r0 + r1⋅r2 + r1⋅r4 + ··· + r1⋅r2(n−1) = r1 [r0 + r2 + r4 + ··· + r2(n−1)]
同様に:
第3列 = r4 [r0 + r4 + r8 + ··· + r4(n−1)]
一般に、
第 ℓ 列 = r(ℓ−1)(ℓ−1) [r0⋅(ℓ−1) + r2⋅(ℓ−1) + r4⋅(ℓ−1) + ··· + r2(n−1)⋅(ℓ−1)] コ
が成り立つ(それぞれの [ ] 内の第1項 = r0 は 1 に等しい)。
第 ℓ 列の各項は r−x⋅x⋅r(x+ℓ−1)(x+ℓ−1) で、それを = rλ とすると:
λ = (x + ℓ − 1)2 − x2 = (2x + ℓ − 1)(ℓ − 1) = (ℓ − 1)2 + 2x(ℓ − 1)
よって rλ は r(ℓ−1)(ℓ−1)⋅r2x⋅(ℓ−1) の形を持つ(x = 0, 1, 2, ··· , n − 1)。
【3】 WW′ を展開したケは、コ(列ごとの部分和)において ℓ = 1, 2, ··· , n とした総和だから、次に等しい。
WW′ = r0⋅0 [r0⋅0 + r2⋅0 + r4⋅0 + ··· + r2(n−1)⋅0]
+ r1⋅1 [r0⋅1 + r2⋅1 + r4⋅1 + ··· + r2(n−1)⋅1]
+ r2⋅2 [r0⋅2 + r2⋅2 + r4⋅2 + ··· + r2(n−1)⋅2]
+ r3⋅3 [r0⋅3 + r2⋅3 + r4⋅3 + ··· + r2(n−1)⋅3]
︙
+ r(n−1)⋅(n−1) [r0⋅(n−1) + r2⋅(n−1) + r4⋅(n−1) + ··· + r2(n−1)⋅(n−1)] サ
[ ] 内はそれぞれ n 項の和で、サの1行目は n に等しい(上述の「第1列の和」に当たる)。実際、係数 r0⋅0 は = 1 で、 [ ] 内は:
r0 + r0 + ··· + r0 = 1 + 1 + ··· + 1 = n シ
もし n が奇数なら、サのそれ以外の行は、どれも = 0。実際、サの2行目の [ ] 内や3行目の [ ] 内など、すなわち
r0 + r2 + r4 + ··· + r2(n−1) ス
r0 + r4 + r8 + ··· + r4(n−1) セ
等々は、いずれも 0 に等しい。というのも、公比 a が 1 でない限り、初項が 1 で末項が z = an−1 の等比数列の和
X = 1 + a + a2 + ··· + an−1
は、次の関係を満たす:
Xa = a + a2 + a3 + ··· + an
∴ X − Xa = X(1 − a) = 1 − an
∴ X = (1 − an)/(1 − a) = (1 − az)/(1 − a)
よって、このような等比数列では、もし公比 a (それは第2項とも等しい)が 1 でなく、しかも公比と末項 z (= an−1) の積 az が 1 に等しければ(1 − az = 0)、数列の和 X = 0。例えばスでは a = r2 は(n が奇数である限り)明らかに 1 でなく、しかも a と z = r2(n−1) の積は
r2 × r2(n−1) = r2n = (rn)2 = 12 = 1
なので、上記条件が満たされる。セなどについても同様。結局:
n が奇数 ⇒ WW′ = n
【4】 一方、もし n が偶数なら、サの n 行の中には、値が 0 でないものが、最初の行の他にも、もう一つだけある。形式上、各行の [ ] 内の公比は、シを別にすると r2, r4, r6, ···, r2(n−1) であり、 r2n = 1 の形にはならない。しかし 1 + n/2 行目(最初の行と最後の行の真ん中あたり)の [ ] 内の公比は、 r2(n/2) = rn = 1 に等しい(コ参照)。すなわち n が偶数の場合には(n が奇数の場合と違って最初の行以外の全部の行が = 0 になるわけではなく)、サの 1 + n/2 行目は次の値を持つ:
r(n/2)⋅(n/2) [r0⋅(n/2) + r2⋅(n/2) + r4⋅(n/2) + ··· + r2(n−1)⋅(n/2)]
= rnn/4 [r0 + rn + r2n + ·· · + rn(n−1)] = rnn/4⋅n ソ
r は 1 の n 乗根なので、任意の整数 d に対して rdn = (rn)d = 1d = 1 を満たす。よってソの [ ] 内の各項は 1 に等しく、それらの和は n。
もし n = 4k が 4 の倍数なら、 nn/4 = (4k)2/4 = 4k2 = nk は n の倍数で、 rnn/4⋅n は (rn)k⋅n = 1k⋅n = n に等しい。この場合、サの最初の行から生じる n と合わせて、 WW′ = n + n = 2n。
一方、もし n = 4k + 2 が「4 の倍数以外の偶数」なら、 nn/4 = (n/2)2 に留意すると rnn/4 = (rn/2)n/2 = (−1)n/2 = −1 であり(なぜなら n/2 = n + 1 は奇数)、従って rnn/4⋅n は −n に等しい。この場合、 WW′ = n + (−n) = 0。
![]()
要約すると:
定理40(Gauß [0], §35) n を正整数、 k を n と互いに素な整数とする。二つのガウス和
S(k, n) と S(−k, n)
の積は、もし n が奇数なら n 自身に等しく、もし n が 4 の倍数なら 2n に等しく、もし n がそれ以外の偶数なら 0 に等しい。
n が 4 の倍数以外の偶数なら、 1 の原始 n 乗根に関連するガウス和は 0 で(§23)、従って S(k, n) = S(−k, n) = 0 なので、積が 0 になるケースは自明。
〔例1〕 S(1, 5) = S(−1, 5) = √5 ⇒ S(1, 5) S(−1, 5) = 5
S(2, 5) = S(−2, 5) = −√5 ⇒ S(2, 5) S(−2, 5) = 5
〔例2〕 S(1, 7) = i√7, S(−1, 7) = −i√7 ⇒ S(1, 7) S(−1, 7) = 7
S(3, 7) = −i√7, S(−3, 7) = i√7 ⇒ S(3, 7) S(−3, 7) = 7
〔例3〕 S(1, 8) = (1 + i)√8, S(−1, 8) = (1 − i)√8 ⇒ S(1, 8) S(−1, 8) = 16
S(3, 8) = (−1 + i)√8, S(−3, 8) = (−1 − i)√7 ⇒ S(3, 8) S(−3, 8) = 16
![]()
2026-04-12 ガウス和の符号と第一補充法則
Gauß 自身は、ガウス和の符号決定について、「算数的」ともいえる書き方をしている。後の世代の Dirichlet–Dedekind の論法は解析的で、複素指数関数を自由に使っている。どちらのアプローチにもメリットとデメリットがあるけど、概して Dirichlet–Dedekind 流の方が見通しが良い。
ガウス和経由で (−1/p) ないし (−2/p) を決定する、という問題をサンプルとして、「雰囲気の違い」を垣間見てみたい。
このように話題を限定した場合、問題の鍵は「どうやったら、ガウス和 S(k, n) の情報を基に、ガウス和 S(−k, n) を決定できるか」。 Gauß 自身は、平明だがトリッキーな具体的計算により、その答えを出した。一方、 Dirichlet–Dedekind は、「要するに i の符号を逆にすればいい」という核心を突いている。
![]()
§1 Gauß 自身による議論。
p を正の奇素数とする。一般に、 h が p の倍数以外の整数なら
S(h, p) = (h/p) S(1, p)
であり(Gauß [0], §22)、言い換えると、 h が mod p の平方剰余か非剰余かに応じて S(h, p)/S(1, p) は +1 ないし −1 に等しい。今、 h = −1 の場合を考えると:
(−1/p) = S(−1, p)/S(1, p) タ
ところが、定理40から S(1, p) S(−1, p) = p なので:
S(−1, p) = p/S(1, p)
これをタの右辺に代入すると:
(−1/p) = p/[S(1, p)]2 チ
p ≡ ±1 (mod 4) の区別に対応して [S(1, p)]2 = ±p なので、チから
(−1/p) = ±1
を得る(複号同順)。すなわち、第一補充法則が示された(Gauß [0], §36)。
Legendre 記号 (−1/p) を上位互換の Jacobi 記号だと解釈するなら、 p を任意の奇数 m ≥ 3 に置き換えても、同じ関係が成立。ただしその場合、もし (−1/m) = +1 でも、 −1 が mod m の平方剰余とは限らない(例えば m = 21)。
念のため、チ以下の処理を場合分けして記す。もし p ≡ 1 (mod 4) つまり S(1, p) = √p なら:
(−1/p) = p/[√p]2 = +1
一方、もし p ≡ 3 ≡ −1 (mod 4) つまり S(1, p) = i√p なら:
(−1/p) = p/[i√p]2 = −1
上記二つのケースをまとめて一つの式で表すと:
(−1/p) = p/[i(p−1)(p−1)/4⋅√p]2 = 1/[(−1)(p−1)(p−1)/4] = (−1)−(p−1)(p−1)/4
最右辺の値は、指数の整数 −(p − 1)(p − 1)/4 = −N2 が偶数か奇数かによって 1 ないし −1 に等しい(ただし N = (p − 1)/2 と置いた)。ある整数の偶奇(偶数か奇数か)はその数を −1 倍しても変わらないので:
(−1)−N2 = (−1)N2 = (−1)N
最後の等号は、 N2 の偶奇と N の偶奇が一致することによる(偶数〚奇数〛である平方数は、偶数〚奇数〛の平方)。結局、第一補充法則の標準形式を得る:
(−1/p) = (−1)(p−1)/2
![]()
§2 Gauß の記述は実直で算術的だが、対照的に Dirichlet–Dedekind による同じ定理の記述はやや抽象的で、複素指数関数の性質に基づく。このアプローチには、大きなメリットがある。ガウス和の定義から:
S(h, p) = ∑{for σ mod p} exp (σ2⋅(2hπi/p))
h = −1 と置けば:
S(−1, p) = ∑{for σ mod p} exp (σ2⋅(2⋅(−1)⋅πi/n)) = ∑{for σ mod p} exp (σ2⋅(2π(−i)/p))
これは、《S(1, p) を表す同様の総和》に含まれる一つ一つの i を −i に置き換えたものに当たる。よって、
S(1, p) = i(p−1)2/4⋅√p
の右辺の i を −i に置き換えることで、次の等式を得る(詳細については後述):
S(−1, p) = (−i)(p−1)2/4⋅√p ツ
他方、
S(−1, p) = (−1/p)⋅i(p−1)2/4⋅√p
であり、この右辺がツに等しいことから:
(−1/p)⋅i(p−1)2/4⋅√p = (−i)(p−1)2/4⋅√p
∴ (−1/p)⋅i(p−1)2/4 = (−i)(p−1)2/4
両辺に i(p−1)2/4 の逆数 (−i)(p−1)2/4 を掛けると:
(−1/p) = (−i)(p−1)2/4 × (−i)(p−1)2/4
= (−1)(p−1)2/4 = (−1)(p−1)/2
最後の等号は、 N = (p−1)/2 と置いた N2 の処理(§1)と同様。後ろから二つ目の等号は、 (−i)N2 × (−i)N2 = [(−i)⋅(−i)]N2 = (−1)N2 による。
ツについて。《S(1, p) の定義の式に含まれる一つ一つの i を −i に置き換えたものが S(−1, p) なので、 S(1, p) の計算結果において i を −i に置き換えれば S(−1, p) の計算結果と一致する》――というのは、表面的には自明な主張なようでもあるが、定義式と計算結果の間の関係が一種のブラックボックスなので、「本当にそんな単純な考えでいいのだろうか?」という疑念が生じるかもしれない。このブラックボックスの中身は、次の通り。 θ が実数のとき、
eiθ = cos θ + i sin θ
の左辺において i を −i に置き換えることは、 θ を −θ に置き換えることと同値:
e−iθ = cos (−θ) + i sin (−θ) = cos θ − i sin θ
置き換え前と置き換え後を比べると、右辺の実部は等しく、虚部の符号だけが反対になる(「右辺の i を −i に置き換える」と言ってもいい)。要するに、この置き換えによって、出力の複素数は共役複素数に変わる。 a, b が実数のときの
eia + eib と e−ia + e−ib
の関係も、全く同じ(共役複素数と共役複素数の和は、和の共役複素数なので)。
eia + eib + eic と e−ia + e−ib + e−ic
等々、項が何個あっても同様(a, b, c などは、どれも実数とする)。従って、
S(1, p) = e1⋅2πi/p + e4⋅2πi/p + e9⋅2πi/p + ··· + epp⋅2πi/p
から見ると、
S(−1, p) = e−1⋅2πi/p + e−4⋅2πi/p + e−9⋅2πi/p + ··· + e−pp⋅2πi/p
は共役複素数で、前者の和が z = x + iy なら、後者の和は z* = x − iy = x + (−i)y に等しい。
もし p が 4 の倍数より 1 大きければ z の虚部が 0 なので(x = √p, y = 0)、 z* は z に等しい:
p ≡ 1 (mod 4) ⇒ S(−1, p) = S(1, p)
一方、もし p が 4 の倍数より 1 小さければ x = 0, y = √p なので、 z* = x − iy は −z = −x − iy に等しい:
p ≡ −1 (mod 4) ⇒ S(−1, p) = −S(1, p)
p ≡ ±1 に応じて S(1, p) = J√p の J = 1 or i を
J = i(p−1)2/4
で表すなら、対応する S(−1, p) = K√p の K = 1 or −i は J の逆数
K = (−i)(p−1)2/4
に当たる(J = 1 なら K = 1, J = i なら K = −i)。つまり、
S(1, p) = i(p−1)2/4⋅√p
の i を −i に置き換えたものが、事実 S(−1, p) に等しい!
この「虚部の符号を反転させる」という単純な発想に基づけば、定理40(それはトリッキーな算術により導出された)を使わずに、同じ結論に至る。
![]()
§3 より一般的に S(k, n) と S(−k, n) の間に同様の関係が成り立つことは、明らかだろう――その場合も、ガウス和の定義において、前者の i を −i で置き換えたものが後者で、両者は互いに共役複素数。
この観点からすると、 Gauß が印象的と呼んだ定理40の WW′ は、「あるガウス和 W とそのガウス和の共役複素数 W* の積」に他ならない。要するに W のノルム(絶対値の平方)だ。だからこそ、 n が奇数の場合(W = √n ないし i√n)には WW′ = n となり、 n が 4 の倍数の場合には WW′ = 2n となる――後者は (±1 ± i)√n = ±√n ± i√n の形の複素数(複号同順とは限らない)のノルム。 n がそれ以外の偶数の場合(W = 0)の WW′ = 0 も自明。
この現象は n が素数でない場合(偶数の場合も含む)にも成り立つ。例えば:
S(1, 15) = i√15 と S(−1, 15) = −i√15
S(2, 15) = −i√15 と S(−2, 15) = i√15
は、それぞれ共役。一般に、 S(−k, n) の値は S(k, n) の値の虚部の符号を変えたものに等しい(もし虚部が 0 なら、二つの値は等しい)。
![]()
§4 合成数も統一的に扱えるように話を拡張するには、 Jacobi 記号を導入する必要がある。それについては後日に譲り、以下では (−1/p) などと関連する別の古典的問題を考えてみたい。
問題 正の奇素数 p を法として −2 は平方剰余か非剰余か。ガウス和の性質を使って、 Legendre 記号 (−2/p) の値を決定したい。
Gauß は、この文脈において (−2/p) を (−1/p) と (2/p) から間接的に得ている。論理的にはそれでもいいのだが、第一・第二補充法則の証明と同様の手法によって (−2/p) をガウス和から直接的に導くことも可能。 i1/2 = (1 + i)/√2 なので
1 + i = i1/2⋅√2 ‥‥⑫
が成り立つことと、任意の奇数 q について
S(q, 8) = 4(i1/2)q ‥‥⑬
が成り立つことに、留意しておく。
第一の解 n ≡ 0 (mod 4) のときの基本のガウス和と⑫から:
S(1, 8p) = (1 + i)√(8p) = (i1/2⋅√2)⋅√(8p) = i1/2⋅4√p ‥‥⑭
定理40から S(1, 8p) S(−1, 8p) = 16p なので、⑭を使うと:
S(−1, 8p) = 16p/S(1, 8p) = 16p/(i1/2⋅4√p) = i−1/2⋅4√p テ
同じ値をこう書くこともできる(二つ目の等号は −8 = −2⋅22 に基づく: 命題2参照)。
S(−1, 8p) = S(−8, p) × S(−p, 8) = S(−2, p) × S(−p, 8)
= (−2/p)⋅S(1, p) × 4(i1/2)−p ←⑬から
= (−2/p)⋅i(p−1)2/4⋅√p × 4(i1/2)−p ト
テとトは等しいので:
i−1/2⋅4√p = (−2/p)⋅i(p−1)2/4⋅√p × 4(i1/2)−p
∴ i−1/2 = (−2/p)⋅i(p−1)2/4 × (i1/2)−p
両辺を i1/2 倍して:
1 = (−2/p)⋅i(p−1)2/4 × (i1/2)−p+1 = (−2/p)⋅iλ
ここで:
λ = (p − 1)2/4 + [−(p − 1)]/2 = (p − 1)(p − 1)/4 + (p − 1)(−2)/4 = (p − 1)(p − 3)/4
∴ iλ = i(p−1)(p−3)/4 = (−1)(p−1)(p−3)/8
従って 1 = (−2/p)⋅(−1)(p−1)(p−3)/8 が成り立ち、両辺を (−1)(p−1)(p−3)/8 倍して、
(−2/p) = (−1)(p−1)(p−3)/8
を得る。∎
これは「負の第二補充法則」。 mod 8 において p ≡ 1, 3 なら〚p ≡ 5, 7 なら〛、 mod p において −2 は平方剰余〚非剰余〛であることを含意。
第二の解 定理40の代わりに Dirichlet–Dedekind の論法を使う。 S(1, 8p) = (1 + i)√(8p) の i を −i に変えたものが S(−1, 8p) なので:
S(−1, 8p) = (1 − i)√(8p) = i−1/2⋅√(16p)
定理40を使わず、簡単にテの関係が得られた! それがトに等しいことから、第一の解と同じ結論に。∎
i−1/2 = (1 − i)∕√2 は i1/2 = (1 + i)∕√2 の逆数(同時に共役複素数でもある)。
![]()
Gauß による定理40の導出は「巧妙な算数」のようなもので、味わい深いともいえるけど、トリッキー。実用上、定理40なしで済ませることができるなら、その方が手っ取り早い。定理40を導くにしても、複素共役の観点からアプローチすれば、ややこしい算術的処理は不要になる。
どのような文脈でも、まず第一補充法則を証明してから第二補充法則を証明するのが、通例だろう(依存関係はないものの、「第一」の方が比較的簡単なので)。ところが Gauß の Summatio では §34 で先に第二補充法則を片付け、 §35 で補助定理を導入、それを使って §36 で第一補充法則を証明している(§36 では「負の第二補充法則」にも言及)。この文脈では、もし複素関数的議論を避けるなら、「分子」が負の (−1/p) は、「分子」が正の (2/p) より扱いにくく、「第一」と「第二」の順序を逆にするのも不自然ではない。
この時期の Gauß は、理論的厳密性などの観点から(あるいは同時代の読者のことを考慮して)複素指数関数の使用を回避し、平明さを優先したのかもしれない。
![]()
2026-04-17 ガウス和: n が偶数の場合から n が奇数の場合を導くこと
Nagell は n が奇数のときのガウス和から n が偶数のときのガウス和を導出した。その議論は(興味深い点もあるけれど)、あまり見通しの良いものではない。逆に n が偶数の場合から n が奇数の場合を導くことは、簡単で見通しが良い。 Dirichlet–Dedekind によるその議論を記す。
![]()
【1/5】 指数関数 ƒ(x) = ex は ƒ(x) = exp x とも表記される(e = 2.71828… は「自然対数の
〔例〕 exp 1 = e1 = e = 2.71828… であるが、
exp (1 + 2πi) や exp (1 − 2πi) や exp (1 + 4πi) や exp (1 − 4πi)
なども、全く同じ値を持つ。
というのも、 Euler の公式から
e2πi = cos (2π) + i sin (2π) = 1 + i⋅0 = 1
なので、指数法則 ex+y = ex⋅ey を使うと:
ex+2πi = ex⋅e2πi = ex⋅1 = ex
2πi の 2 を任意の(正または負の)偶数に置き換えても、同様。
![]()
【2/5】 以下では n を正の整数とする。ガウス和 S(h, n) を次の形式で定義しよう(h は整数):
S(h, n) = ∑{for ν mod n} exp (ν2⋅2hπi/n) ナ
ナの n 個の項の総和 ∑ においては、変数 ν が mod n において 0, 1, 2, ··· , n − 1 のそれぞれと合同な値をちょうど一度ずつ取る限りにおいて、具体的な ν の値の選択はどうでもいい(後述)。 ν の値を具体的に指定した方が便利なら、
∑{ν=0 to n−1} あるいは ∑{ν=1 to n}
のどちらかを使うのが自然だけど、実際にはそれ以外でも構わないし、 ν が 1 刻みでだんだん増える必要すらない。
Euler の公式を使ってナを三角関数表記すると、和の実部〚虚部〛すなわち cos たち〚sin たち〛の和は、「複素単位円の円周を n 等分する点を一定の方法で選択し、それらの横座標〚縦座標〛を足し合わせたもの」に当たる。もし h と n が互いに素なら、この和の実部・虚部は、それぞれ 0 または ±√n に等しい(具体的にゼロ・プラス・マイナスのどれになるかは h, n の選択による)。その表面的事実だけでも一種神秘的で面白い。
ナの総和を制御する整数 ν の値について、上記のような「具体的ではない指定」が許される理由は、次の通り。総和記号で表される一つ一つの項、つまり
exp (ν2⋅2hπi/n) ニ
において、特定の整数 ν を、 ν′ ≡ ν (mod n) であるような任意の整数 ν′ に置き換えても、その項の値は変わらない。実際、 ν′ ≡ ν (mod n) というのは、 ν′ と ν の差 が n の倍数という意味なので、 ν′ = ν + kn と書くことができる(k: 整数)。そのとき、
exp (ν′2⋅2hπi/n) = exp [(ν2 + 2νkn + k2n2)⋅2hπi/n]
= exp [ν2⋅2hπi/n + (2νkn + k2n2)⋅2hπi/n] = exp [ν2⋅2hπi/n + (2νk + k2n)⋅(2hπi)] ヌ
も、ニと同じ値を持つ。なぜなら、ヌの最右辺は、 exp (ν2⋅2hπi/n) の入力が 2πi の整数倍――具体的には (2νk + k2n)⋅h 倍――増えたもの。前述のように、入力に 2πi の整数倍の違いがあっても、指数関数の値は変わらない。
要するに、ナの右辺各項に含まれる整数 ν を別の整数 ν′ に置き換えたとしても、 ν ≡ ν′ (mod n) である限り、その項の値は同じ。このことから、定義ナにおいて一つ一つの ν の値を具体的に指定することは、不可欠ではない。具体的な ν の値にこだわらず、「全体として、それらと合同な一組の整数が、何らかの順序で並んでいる」と考えた方が便利なことがある。
![]()
【3/5】 本論の準備として、命題を三つ記す(Dirichlet–Dedekind, §113)。そのうち命題1は自明に近く、本論で直接引用されるわけではないが、基本的。命題2も自明に近い。命題3は「n が合成数のときのガウス和」についての基本公式で、既に何度か証明した。
命題1 h ≡ h′ (mod n) なら:
S(h, n) = S(h′, n)
証明 ガウス和の定義ナにより S(h, n) と S(h′, n) は各項が等しい。なぜなら仮定により h′ = h + kn なので(k: 整数)、任意に選択された整数 ν に関連して、
exp (ν2⋅2h′πi/n) = exp (ν2⋅2(h + kn)πi/n) = exp (ν2⋅2hπi/n + 2kπi) = exp (ν2⋅2hπi/n)
が成り立つ。∎
命題2 a と n が互いに素なら:
S(ha2, n) = S(h, n)
証明 定義ナから:
S(ha2, n) = ∑{for ν mod n} exp (ν2⋅2(ha2)πi/n) = ∑{for ν mod n} exp ((νa)2⋅2hπi/n)
変数 ν が mod n の n 種類の整数値をちょうど一度ずつ取るなら、 νa も mod n の n 種類の整数値を(何らかの順序で)ちょうど一度ずつ取るので、上記の総和は、
∑{for ν mod n} exp (ν2⋅2hπi/n) = S(h, n)
に等しい。∎
例えば ν = 0, 1, 2, ··· , n − 1 とする。もし ν1, ν2 がその範囲の相異なる整数なら、当然 ν1 ≢ ν2 (mod n) だが(★)、そのとき ν1a ≢ ν2a (mod n) でもある。なぜなら、もしも ν1 ≠ ν2 のときに ν1a ≡ ν2a が成立したなら、その両辺を a で割って ν1 ≡ ν2 となってしまうが、それは前提(★)に反する。結局 ν が mod n において不合同な n 個の値を取るとき、対応する νa の値たち(計 n 個)も互いに不合同。 mod n において不合同な数は n 種類しかないので、どちらの n 個の整数も、剰余の代表の一組。
命題3 正の整数 m, n が互いに素で、 h が整数なら:
S(hm, n) S(hn, m) = S(h, mn)
証明 定義ナから:
S(hm, n) = ∑{for ν mod n} exp (ν2⋅2(hm)πi/n) は n 項の和
S(hn, m) = ∑{for μ mod m} exp (μ2⋅2(hn)πi/m) は m 項の和
両者の積は、次の形の項を mn 個、足し合わせたもの:
exp (ν2⋅2hmπi/n) × exp (μ2⋅2hnπi/m) = exp (ν2⋅2hmπi/n + μ2⋅2hnπi/m)
= exp [(mν2/n + nμ2/m)⋅2hπi] = exp [(m2ν2 + n2μ2)/(mn)⋅2hπi]
= exp [((mν + nμ)2 − 2mnμν)/(mn)⋅2hπi]
= exp [(mν + nμ)2⋅2hπi/(mn) − 2μν⋅2hπi] = exp [(mν + nμ)2⋅2hπi/(mn)]
ここで変数 ν は、 mod n の n 種類の整数値のそれぞれに一度ずつ等しくなり、同様に μ は mod m の m 種類の整数値に一度ずつ等しくなる。ゆえに mν + nμ は、 mod mn の mn 種類の整数値に一度ずつ等しくなる†。よって λ = mν + nμ, ℓ = mn と置くと、上記の形の mn 項の和、すなわち S(hm, n) と S(hn, m) の積は、次の和に等しい(一つ目の等号は定義ナによる):
∑{for λ mod ℓ} exp (λ2⋅2hπi/ℓ) = S(h, ℓ) = S(h, mn) ∎
† もし μ ≢ μ′ (mod m) と ν ≢ ν′ (mod n) の少なくとも一方が真なら:
mν + nμ ≢ mν′ + nμ′ (mod mn)
実際、もしも mν + nμ ≡ mν′ + nμ′ (mod mn) だとしたら
0⋅ν + nμ ≡ 0⋅ν′ + nμ′ (mod m) つまり nμ ≡ nμ′ (mod m)
なので μ ≡ μ′ (mod m) であり、同様に ν ≡ ν′ (mod n)。要するに (μ mod m, ν mod n) の mn 種類の組み合わせの一つ一つに対して(具体的な整数 μ, ν の選び方と関係なく)、 mν + nμ の値は mod mn において不合同で、 mod mn の計 mn 種類の整数値にちょうど一度ずつ等しくなる。
参考 Gauß は、命題3とほとんど同じ内容を次の形式で表現した(Summatio, §25)。 1 の原始 mn 乗根 r = exp 2hπi/(mn) が与えられたとき(h, m, n はどの二つも互いに素とする)、その r に関連するガウス和
W = r0⋅0 + r1⋅1 + r2⋅2 + ··· + r(mn−1)⋅(mn−1)
は、次の二つのガウス和の積に等しい:
P = r0⋅0⋅mm + r1⋅1⋅mm + r2⋅2⋅mm + ··· + r(n−1)⋅(n−1)⋅mm
Q = r0⋅0⋅nn + r1⋅1⋅nn + r2⋅2⋅nn + ··· + r(m−1)⋅(m−1)⋅nn
rννmm = (exp 2hπi/(mn))ννmm = exp (2hπi/(mn)⋅ν2⋅m2) なので、 P を命題3の表記に変換すると:
P = ∑{for ν mod n} rννmm = ∑{for ν mod n} exp (ν2⋅2hπi/(mn)⋅m2) = ∑{for ν mod n} exp (ν2⋅2hmπi/n) = S(hm, n)
同様に Q = S(hn, m), W = (h, mn)。
![]()
【4/5】 本論(Dirichlet–Dedekind, §114)。 4 の(正の)倍数 4n について、
S(1, 4n) = (1 + i)√(4n) ネ
が成り立つことを既知とする。今 n を奇数として、 S(1, n) を求めたい。
ネは、事実としてはシンプルだけど、その導出は簡単ではない。 Gauß 自身の議論は初等的だが、不透明なトリックに基づく。 Dirichlet の論法は比較的簡潔だが、ある種の積分に基づく。
命題4 mod 4 において n ≡ 1 か n ≡ 3 かに応じて、 S(1, n) は √n ないし i√n に等しい。
この命題は既に Gauß によって直接的に証明されているが(再証明/Hua 版)、ここでは同じ内容を n が偶数のときのガウス和から間接的に導く。
証明 命題3で h = 1, m = 4 と置くと:
S(4, n) S(n, 4) = S(1, 4n) ノ
ノの左辺・第1因子は、命題2から S(1⋅22, n) = S(1, n) に等しく、第2因子は定義ナから、
exp (02⋅2nπi/4) + exp (12⋅2nπi/4) + exp (22⋅2nπi/4) + exp (32⋅2nπi/4)
= i0⋅n + i1⋅n + i4⋅n + i9⋅n = 2(1 + in)
に等しい。よってノの左辺は次の左辺に等しく、ノの右辺は(ネによって)次の右辺に等しい:
S(1, n)⋅2(1 + in) = (1 + i)√(4n) つまり S(1, n)⋅(1 + in) = (1 + i)√n
∴ S(1, n) = (1 + i)/(1 + in)⋅√n
この右辺の平方根の係数(分数)は、 n ≡ 1 (mod 4) なら (1 + i)/(1 + in) = (1 + i)/(1 + i) = 1 に等しく、 n ≡ 3 (mod 4) なら
(1 + i)/(1 − i) = (1 + i)⋅(1 − i)−1 = (1 + i)⋅(1 + i)/2 = i
に等しい†。あるいは、同じことだが (1 + i)/(1 − i) = (1 + i)2/[(1 − i)(1 + i)] = (12 + 2i + i2)/(12 − i2) = 2i/2 = i に等しい‡。∎
† 1 ± i は共役(偏角は ±π/4)なので、 (1 ± i)−1 は 1 ∓ i と同じ偏角を持つ(複号同順)。一方、 1 ± i の絶対値は √2 なので、 (1 ± i)−1 の絶対値は 1/√2 で、 1 ± i の絶対値の 1/2。従って (1 ± i)−1 = (1 ∓ i)/2。
‡ または (1 + i)/(1 − i) = (1 + i)(1 − i)/(1 − i)2 = 2/(−2i) = 1/(−i) = i。
![]()
【5/5】 n が 4 の倍数以外の偶数(言い換えると奇数の 2 倍)の場合。
命題4a mod 4 において n ≡ 2 なら S(1, n) = 0。
この命題は直接的にも証明可能だが、命題3経由の次の論法は簡明。
証明 n = 2q と置くと q は(正の)奇数。命題3から:
S(1, n) = S(1, 2q) = S(2, q) S(q, 2)
この式は 0 に等しい。なぜなら、右辺の因子 S(q, 2) は、定義ナから、
exp (02⋅2qπi/2) + exp (12⋅2qπi/2) = 1q + (−1)q = 0
に等しい。∎
より一般的に、 n が ≡ 2 (mod 4) で h が n と互いに素なら:
S(h, n) = S(h, 2q) = S(2h, q) S(hq, 2) = 0
実際 hq は奇数なので(h は偶数 n と互いに素だから奇数)、上記と同様に S(hq, 2) = 0。
![]()
付記 【4/5】で見たように、
S(1, n) = Jn √n (✽)
と書くと、 n ≡ 1, 3 (mod 4) の場合には Jn = ƒ(n) = (1 + i)/(1 + in) と表現できる。しかし n ≡ 0, 2 (mod 4) の場合にも(✽)が成立するようにしたければ、 Jn の定義(式表現)を調整する必要がある。実際 n ≡ 0, 1, 2, 3 に対して、それぞれ
Jn = 1 + i, 1, 0, i
であるべきなのに、 ƒ(n) の値は次の通り:
(1 + i)/2 = (1 − i)−1, 1, ∞, i
そこで ƒ(n) の代わりにその逆数 ƒ(n)−1 = (1 + in)/(1 + i) を使うと:
ƒ(n)−1 = 1 − i, 1, 0, −i
これら四つの値は、上記「あるべき Jn の値」の共役複素数なので、 ƒ(n)−1 のそのまた共役を考えれば、所望の結果を得る。すなわち、 ƒ(n)−1 の式の i を −i に置き換えて、
Jn = (1 + (−i)n)/(1 + (−i)) = (1 + (i−1)n)/(1 − i) = (1 + i−n)/(1 − i)
とすればいい。あるいは同じことだが、 (1 − i)−1 = (1 + i)/2 なので:
Jn = ((1 + i−n)(1 + i)/2
このタイプの分数表現は、 Dirichlet の方法でガウス和の符号を決定すると、自然に生じる。例えば次を参照:
Samuel James Patterson (2007), “Gauss Sums” [in Shaping of Arithmetic after C. F. Gauss’s Disquisitiones Arithmeticae, edited by Catherine Goldstein, et al], pp. 513–514
https://webusers.imj-prg.fr/~pierre.charollois/Patterson_Gauss_sums_in_Goldstein_Schappacher.pdf
Bill Casselman (2009), “Dirichlet’s calculation of Gauss sums”, L’Enseignement Mathématique (2), Vol. 57, No. 3/4 (2011), 281–301
https://ems.press/journals/lem/articles/12115
[PDF] https://ems.press/content/serial-article-files/44221
cf. Apostol (1976), Introduction To Analytic Number Theory, p. 195
n を奇数に限るなら Jn = i(n−1)2/4 とも表現可能で、この形式は常用される。特定の文脈では、 ƒ(n)−1 = (1 + in)/(1 + i) = (1 + in)(1 − i)/2 を Jn の逆数として使うことも役立つ(n ≡ 1, 3 に対して、この分数の値は 1, −i)―― {Theodor Estermann} はガウス和の符号決定において、この表現を利用した†。Hua が記した証明も、同じアイデアに基づく。 Berndt たちも Estermann による証明を紹介している。
† T. Estermann (1945), “On the Sign of the Gaussian Sum”, Journal of the London Mathematical Society, Volume s1-20, Issue 2, 66–67
cf. Hua Loo-Keng (1957), 數論導引 — English tr. (1982), Introduction to Number Theory, pp. 165–166 [more info]
cf. Bruce C. Berndt, et al. (1998), Gauss and Jacobi Sums, pp. 24–25
![]()
2026-04-22 ガウス和とヤコビ記号・前編
ガウス和 S(h, n) の値(実部・虚部)は、指数関数の(あるいは、同じことだが三角関数の)和として定義され、特に h = 1 の場合に話を限れば、純粋にそのような問題として扱うこともできる。しかし一般の場合のガウス和を扱おうとすると、 Legendre 記号のような「指標」が絡んでくる(n が奇素数の場合)。
Legendre 記号を Jacobi 記号に拡張することにより、ガウス和と指標の関係を一般化して、 n が必ずしも素数ではない奇数の場合についても、ほぼ同様に扱うことができる。
Jacobi 記号への拡張を念頭に、土台となるケース(n が奇素数で h が任意の整数。 Legendre 記号を指標とする)をあらためて検討してみたい。
![]()
次の命題5は基本的で、複数の証明法がある。 Dirichlet–Dedekind, §115 の記述が
命題5 p を 3 以上の素数、 h を p の倍数以外の整数とする。このとき:
S(h, p) = ∑{σ=1 to p−1} (σ/p) exp [σ⋅2hπi/p] = (h/p) S(1, p)
ζ = exp [2hπi/p] と置くと ζ は 1 の原始 p 乗根。命題5の総和は ∑ (σ/p) ζσ に当たる。
証明 S(h, p) = ∑{for x mod p} exp [x2⋅2hπi/p] の x の具体的な値(剰余の一組)を x = 0, ±1, ±2, ···, ±(p − 1)/2 とすると:
S(h, p) = exp [02⋅2hπi/p] + ∑{x=1 to (p−1)/2} exp [x2⋅2hπi/p] + ∑{x=1 to (p−1)/2} exp [(−x)2⋅2hπi/p]
= 1 + 2 ∑{x=1 to (p−1)/2} exp [x2⋅2hπi/p]
mod p の全種類の(0 と不合同な)平方剰余を一つずつ選んで、それらから成る集合 R を考えると、 x2 も (−x)2 も、それぞれ R の各要素と合同な整数値をちょうど一度ずつ取る:
= 1 + 2∑{for σ∈R} exp [σ⋅2hπi/p]
表記簡潔化のため、この ∑σ∈R の値を A として、
S(h, p) = 1 + 2A = 1 + A + A ‥‥❶
と書くことにする。
同様に、 mod p の全種類の非剰余の集合を N として
B = ∑{for σ∈N} exp [σ⋅2hπi/p]
と置く。仮定により h は p の倍数ではないので、
1 + A + B = ∑{σ=0 to p−1} exp [σ⋅2hπi/p] = 0 ‥‥❷
が成り立つ†。従って A = −1 − B。これを❶に代入して:
S(h, p) = 1 + A + (−1 − B) = A − B
= ∑{for σ∈R} exp [σ⋅2hπi/p] − ∑{for σ∈N} exp [σ⋅2hπi/p] = ∑{σ=1 to p−1} (σ/p) exp [σ⋅2hπi/p]
命題5の第一の等号が示された。上記の等式を変形して、
S(h, p) = (h/p) ∑{τ=1 to p−1} (τ/p) exp [τ⋅2πi/p] ‥‥❸
を得る‡。右辺の (h/p) の後ろの総和は S(1, p) に等しい。実際 h = 1 のとき、❸はこうなる:
S(1, p) = (1/p) ∑{τ=1 to p−1} (τ/p) exp [τ⋅2πi/p] = ∑{τ=1 to p−1} (τ/p) exp [τ⋅2πi/p]
従って、❸の右辺の総和を S(1, p) で置き換えることができ、命題5の第二の等号が示される。∎
† ω = exp [2πi/p] は 1 の原始 p 乗根。 h が p の倍数でないなら ζ = exp [2hπi/p] = ωh も 1 の原始 p 乗根。よって❷の ∑ = ζ0 + ζ1 + ··· + ζp−1 は、 1 の全種類の p 乗根の和。
‡ (h/p) が +1 でも −1 でも
(σ/p) = (h/p)(h/p)(σ/p) = (h/p)(hσ/p) なので:
∑ (σ/p) exp [σ⋅2hπi/p] = (h/p) ∑ (hσ/p) exp [hσ⋅2πi/p]
mod p において、 σ が「0 と不合同な p − 1 種の整数」と一度ずつ合同になるとき、 hσ も同じ p − 1 種の整数と一度ずつ合同になる。 τ ≡ hσ と置き、これら p − 1 種の τ の値として 1, 2, ···, p − 1 を選んだものが❸の右辺。
![]()
「分母」を法として「分子」が ≡ 0 の場合の Legendre 記号の値は、現代の教科書では、天下り的に定義されることが多い。 Dirichlet–Dedekind, §116 には、この規約について明示的な説明がある。
もし h ≢ 0 (mod p) なら、
∑{σ=1 to p−1} (σ/p) exp [σ⋅2hπi/p] = (h/p) S(1, p) ‥‥❹
が成り立つ(命題5)。一方、もし仮に h ≡ 0 (mod p) なら、❹の左辺は
∑{σ=1 to p−1} (σ/p)⋅1 = ∑{σ=1 to p−1} (σ/p)
に等しく†、従って 0 に等しい(なぜなら σ = 1, 2, ···, p − 1 の中には (σ/p) = +1 を満たす σ と (σ/p) = −1 を満たす σ がちょうど (p − 1)/2 個ずつ存在)。よって、 h ≡ 0 (mod p) のときにも❹が成り立つとするなら、そのとき❹の右辺は 0 に等しい必要がある。 S(1, p) は ≠ 0 なので、「h が p で割り切れる場合には、常に
(h/p) = 0
と設定することに、われわれは合意しなければならない」――Dedekind のこの何げないコメントは、ちょっとほっこりする。なぜそうするのかちゃんと説明してくれる、誠実で頼もしいガイド!
† h が p の倍数なら h/p = N は整数なので、 exp [σ⋅2hπi/p] = exp [σ⋅2Nπi] = (e2πi)σN = 1σN = 1。
この規約は実用上便利で、簡潔な表記・柔軟な処理に役立つ(実は単なる場当たり的な便宜上の規約ではなく、より深い文脈においても、必然性・整合性を持つ)。実際、この規約によれば (0/p) は――より一般的に、 N が任意の整数のとき (Np/p) は―― 0 に等しいのだから、例えば
∑{σ=1 to p−1} (σ/p)
の代わりに
∑{σ=0 to p−1} (σ/p) あるいは ∑{σ=1 to p} (σ/p) あるいは ∑{for σ mod p} (σ/p)
と書くことができ、同様の理由から、❹の左辺をこう書くことができる:
∑{σ=0 to p−1} (σ/p) exp [σ⋅2hπi/p] あるいは ∑{ forσ mod p} (σ/p) exp [σ⋅2hπi/p] 等々
従って、命題5の第二の等号を次のように書いてもいい。
命題6 p が 3 以上の素数、 h が任意の整数のとき:
∑{σ=0 to p−1} (σ/p) exp [σ⋅2hπi/p] = (h/p) S(1, p)
左辺の総和を ∑{σ=1 to p} としてもよく、より柔軟に ∑{ forσ mod p} としてもいい。
証明 もしも命題6の左辺の総和が σ = 1 から始まるとしたら、 h ≢ 0 (mod p) のとき命題6の等式は正しく(命題5)、上述の合意(規約)の結果、 h ≡ 0 のときにも同じ式の左辺と右辺は等しい。今、命題6の総和が、そこに書かれているように σ = 0 から始まるとしよう。 σ = 1 から始まる場合と比べ、左辺に一つの項
(0/p) exp [0⋅2hπi/p]
が追加されるだけだが、規約によりこの項は 0 に等しいので†左辺の値に影響せず、従って左辺と右辺の等号が維持される。∎
† exp [0⋅2hπi/p] は 1 に等しいが、この値はどのみち (0/p) 倍つまり 0 倍されるのだから、項の値に影響しない。
注意 Legrange 記号の上記の拡張によって、命題5の第二の等号については h ≢ 0 (mod p) という制限がなくなるが、命題5の第一の等号については、この制限はなくならない。具体的に h ≡ 0 の場合 S(h, p) は p に等しく、第二の等号以降の値 0 と等しくない。実際、もし h が p の倍数なら h/p = N は整数なので、 S(h, p) = ∑ exp [x2⋅2πiN] の右辺の p 個の項はどれも (e2πi)Nxx = 1Nxx = 1 に等しく、従って S(h, p) = p。
![]()
命題5から見ると命題6は「値が 0 の項を両辺に追加した」だけで、実質的な違いがないように思われる。他方において、この命題6をさらに拡張できる。 Legendre 記号を Jacobi 記号に置き換え、正の奇素数 p を任意の正の奇数 m に置き換えても、命題6と同じ形の等式は、一定の条件(m が平方因子を持たないこと)が満たされる限り、依然として成り立つ。
![]()
2026-04-25 ガウス和とヤコビ記号・中編
もし m が正の奇素数で、整数 h が m と互いに素なら、ガウス和
S(h, m) = ∑{for μ mod m} exp [μ2⋅2hπi/p]
は、「Legendre 記号との積」を含む和
T(h, m) = ∑{for μ mod m} (μ/m) exp [μ⋅2hπi/m]
と一致し、どちらも (h/m)⋅S(1, m) に等しい(命題5)。実は、この
S(h, m) = (h/m)⋅S(1, m) = T(h, m) ‥‥❺
という関係の一部または全部は、 m が任意の正の奇数の場合にもそのまま成り立つ。その際、 T(h, m) の定義や❺に含まれる Legendre 記号は、拡張されて Jacobi 記号となる。
要するに、「m が奇素数のときのガウス和 S は、 別の形式の和 T としても表現可能」という重大事実が、一定条件下で「m が素数でない場合」にまで拡張される。現象としては単純だが、「何が起きているのか?」を直ちに
![]()
奇数 m が平方因子を持つ場合【※補足1】、❺の等式 S(h, m) = T(h, m) は成り立たなくなるものの、もし h と m が互いに素なら、❺の前半の関係
S(h, m) = (h/m)⋅S(1, m)
は維持される――ここで、右辺の (h/m) は Jacobi 記号。他方において、 h と m が互いに素でない場合、やはり❺の等式 S(h, m) = T(h, m) は成り立たなくなるものの、もし m が平方因子を持たないなら、❺の後半の関係
T(h, m) = (h/m)⋅S(1, m)
は維持される。
ガウス和 S(1, m) は、 mod 4 において m ≡ 1 か m ≡ 3 かに応じて √m ないし i√m に等しく(命題4)、両者をまとめて
S(1, m) = i(m−1)2/4⋅√m
と書くことができる。この表記を使うと、上記の主張は、こう要約される。
命題7 m を正の奇数、 h を(必ずしも正ではない)整数とする。このとき:
〘ⅰ〙 h と m が互いに素なら、ガウス和 S(h, m) は、
(h/m)⋅i(m−1)2/4⋅√m
に等しい。
〘ⅱ〙 m が平方因子を持たないなら、「Jacobi 記号との積」を含む和 T(h, m) は、上記と同じ形式の値を持つ。つまり、
(h/m)⋅i(m−1)2/4⋅√m
に等しい。
命題7が証明されれば、次の事実が派生する。第一に、もし h と m が互いに素なら、ガウス和の(実部ないし虚部の)符号は、 Jacobi 記号 (h/m) のみによって定まる。第二に、もし h と m が互いに素で、しかも m が平方因子を持たないなら、 S(h, m) と T(h, m) は等しい(どちらも同じ形式の数値に等しいから)。 m が奇素数の場合にこれらの事実が成り立つことは既知だが、 m が素数でない場合にも同じことが成り立つ――平方因子の有無などについての、一定の条件が満たされる限りにおいて。
以下では〘ⅱ〙を証明する。〘ⅰ〙の証明(比較的易しい)については次回に。
![]()
p が 3 以上の素数のとき、 S(1, p) = i(p−1)2/4⋅√p なので、命題6から:
∑{for σ mod p} (σ/p) exp [σ⋅2hπi/p] = (h/p)⋅i(p−1)2/4⋅√p ‥‥❻
同様に q が 3 以上の素数なら:
∑{for τ mod q} (τ/q) exp [τ⋅2hπi/q] = (h/q)⋅i(q−1)2/4⋅√q ‥‥❼
p と q は互いに素(つまり、相異なる正の奇素数)、と仮定せよ。この仮定の下で、
∑{for μ mod pq} (μ/(pq)) exp [μ⋅2hπi/(pq)] = (h/(pq))⋅i(pq−1)2/4⋅√(pq) ‥‥❽
を証明したい。それができれば、相異なる二つの(正の)奇素数の積 m = pq は、(❼の q を m と読み替えれば)再び❼の関係を満たすことになり、命題7〘ⅱ〙が部分的に―― m が相異なる 2 個の奇素数の積の場合については――証明される。後述のように、❼の q を「相異なる N 個の奇素数の積」、❻の p を「そのどれとも異なる奇素数」と仮定した場合にも、全く同様に❻と❼から❽を導けるので、 m が持つ素因子の個数についての帰納法から、証明が完成するであろう。
命題7〘ⅱ〙の証明 ❻と❼の左辺同士・右辺同士の積を考えると:
∑{for σ,τ} (σ/p)(τ/q) exp [σ⋅2hπi/p + τ⋅2hπi/q] = (h/p)(h/q)⋅i(p−1)2/4+(q−1)2/4⋅√(pq)
m = pq と置くと:
∑{for σ,τ} (σ/p)(τ/q) exp [(σq + τp)⋅2hπi/m] = (h/m)⋅i(p−1)2/4+(q−1)2/4⋅√m ‥‥❾
ここで左辺の ∑ は、合計 pq 種類ある対 (σ, τ) にわたる―― σ は mod p の p 種の整数値を取り(例えば σ = 1, 2, ···, p)、 τ は mod q の q 種の整数値を取り(例えば τ = 1, 2, ···, q)、それらの全パターンの組み合わせが、総当たり的に生じる。 σ と τ の値の(pq 種類の)組み合わせの一つ一つに対応して、 σq + τp も mod pq の全種類の整数とちょうど一度ずつ合同になる。
なぜなら mod p ないし mod q で考えると、 σq + τp ≡ σ′q + τ′p (mod pq) は σq ≡ σ′q (mod p) ないし τp ≡ τ′p (mod q) を含意し、それは σ ≡ σ′ (mod p) かつ τ ≡ τ′ (mod q) を含意する。「p と q が互いに素」という仮定が、ここで利いている。
今 μ = σq + τp と置くと、 μ は mod m の m (= pq) 種の整数とちょうど一度ずつ合同になるわけだが、それら m 種の μ の値の一つ一つについて、
(μ/p) = ((σq + τp)/p) = (σq/p)
(μ/q) = ((σq + τp)/q) = (τp/q)
が成り立つので【※補足2】:
(μ/m) = (μ/p)(μ/q) = (σ/p)(τ/q)⋅(p/q)(q/p)
ゆえに❾の両辺(左辺については総和の各項)を (p/q)(q/p) 倍することにより、
∑{for μ mod m} (μ/m) exp [μ⋅2hπi/m] = (h/m)⋅iA (p/q)(q/p)⋅√m ‥‥❿
を得る。ここで A は、❾(の右辺)の i の肩の指数:
A = (p − 1)2/4 + (q − 1)2/4 = [(p − 1)/2]2 + [(q − 1)/2]2
さらに、相互法則により (p/q)(q/p) = (−1)(p−1)(q−1)/4 = (i2)(p−1)(q−1)/4 なので、これを = iB と書くと:
B = 2⋅(p − 1)(q − 1)/4 = 2⋅(p − 1)/2⋅(q − 1)/2
従って❿の右辺は、
(h/m)⋅iA iB⋅√m = (h/m)⋅iA+B⋅√m
に等しい。ここで:
A + B = [(p − 1)/2]2 + [(q − 1)/2]2 + 2⋅(p − 1)/2⋅(q − 1)/2 = ((p − 1)/2 + (q − 1)/2)2
ところが、仮定により p − 1 と q − 1 はどちらも偶数なので、
m = pq = [(p − 1) + 1][(q − 1) + 1] = (p − 1)(q − 1) + (p − 1) + (q − 1) + 1
の最右辺・第1項は 4 の倍数。よって:
m ≡ (p − 1) + (q − 1) + 1 (mod 4)
∴ (m − 1)/2 ≡ (p − 1)/2 + (q − 1)/2 (mod 2)
∴ A + B = ((p − 1)/2 + (q − 1)/2)2 ≡ [(m − 1)/2]2 (mod 4)
結局、❿の右辺 = (h/m)⋅iA+B⋅√m は、
(h/m)⋅i(m−1)2/4⋅√m
に等しく【※補足3】、❿は次を含意する:
∑{for μ mod m} (μ/m) exp [μ⋅2hπi/m] = (h/m)⋅i(m−1)2/4⋅√m
すなわち m が「相異なる 2 個の奇素数の積」に等しい場合、命題7の〘ⅱ〙は正しい。言い換えると、 q が「相異なる 2 個の奇素数の積」に等しい場合にも、❼は成り立つ。
今証明されたことを念頭に、 q が「相異なる 2 個の奇素数の積」に等しいと再解釈して(あるいは、より一般的に、 q が相異なる N 個の奇素数の積に等しいと仮定して)、❻と❼の積を考えるところから議論を反復すると、全ての主張はそのまま成り立ち(Jacobi 記号が Legendre 記号と同じ性質を持つことによる。相互法則に関しては Jacobi 記号バージョンを使う必要があるが、式の形式は同じ)、 m が「相異なる 3 個の(あるいは、より一般的に N + 1 個の)奇素数の積」に等しい場合にも、命題7の〘ⅱ〙は正しい――と結論される。
最後に、 m の素因子の個数 N が 1 のとき、つまり m = p のときには、命題7〘ⅱ〙は命題6そのものであり、証明すべきことは何もない。 N が 0 のとき、つまり m = 1 のときには、定義により T(h, 1) = 1 であり、命題は自明。∎
以上の証明は、 Dirichlet–Dedekind, §116 に基づく。
![]()
【※補足1】 整数 a が平方因子を持たない(square-free, squarefree または quadratfrei)というのは、 a が 1 以外のどの平方数(4, 9, 16, 25, ···)でも割り切れないこと。言い換えれば、同じ素数で 2 回以上、割り切れないこと。
例えば a = 5, 6, 7, 10, 11 は平方因子を持たない。しかし a = 4 や a = 12 や a = 45 は平方因子を持つ――実際 4 や 12 は平方数 4 で割り切れ、 45 は平方数 9 で割り切れる。言い換えれば、 4 や 12 は同じ素数 2 で 2 回割り切れ、 45 は同じ素数 3 で 2 回割り切れる。
±1 や素数は、明らかに平方因子を持たない。 k 個の(必ずしも相異ならない)素数の積 p1p2···pk に等しい合成数 a は、それら k 個の素因子のどの二つも相異なるなら、平方因子を持たない(例えば a = 2⋅3⋅5 = 30)。一方、もしそれら k 個の素因子の中に同じ素数(それを q とする)が 2 個以上含まれるなら(例えば a = 3⋅3⋅5 = 45)、 a は平方数 q2 で割り切れ、すなわち平方因子 q2 を持つ。平方数自身(例えば 4 や 9 や 25)も、もちろん平方因子を持つ(平方数である自分自身で、割り切れるから)。
【※補足2】 m が正の奇素数のとき、 Legendre 記号について
a ≡ b (mod m) ⇒ (a/m) = (b/m) (✽)
が成り立つことは明白(特別なケースとして、もし a が m と互いに素でないなら、 a と合同な b も m と互いに素でないので、二つの Legendre 記号は、どちらも 0 に等しい)。 m が正の奇数のとき、外形的に全く同じ性質(✽)が、 Jacobi 記号についても成り立つ。
実際、 p, q を(必ずしも相異ならない)正の奇素数として m = pq と置き、 mod m つまり mod pq において a ≡ b と仮定すると、 mod p でも mod q でも a ≡ b なので、 Legendre 記号についての性質(✽)から:
(a/p) = (b/p) かつ (a/q) = (b/q)
∴ (a/p)(a/q) = (b/p)(b/q)
この最後の等式の左辺・右辺をそれぞれ一つの Jacobi 記号にまとめれば、 m が「2 個の奇素数の積」の場合の Jacobi 記号についても(✽)がそのまま成り立つことが、示される(特別なケースとして、もし a が p または q と互いに素でないなら、それと合同な b も p または q と互いに素でないので、二つの Jacobi 記号は、どちらも 0 に等しい)。 m を N 個の正の奇素数の積とすると、今証明した N = 2 のケースの正しさを根拠に、容易に N = 3 のケースも正しいことが示される(p を正の奇素数、 q を正の奇素数 2 個の積とすればいい)。同様にして(帰納法により)、一般の N ≥ 2 に対して(✽)が成り立つ。
本文では a = σq + τp と b = σq について(✽)を適用している。すなわち τp ≡ 0 (mod p) なので σq + τp ≡ σq (mod p) であり、従って p を「分母」とする Jacobi 記号(もし p が素数なら Legendre 記号と考えてもいい)の値は、「分子」の σq + τp を σq に置き換えても変わらない。全く同様に、「分子」が σq + τp で「分母」が q の Jacobi 記号(もし q が素数なら Legendre 記号と考えてもいい)の値は、「分子」を τp に置き換えても変わらない。
【※補足3】 整数 x, y が x ≡ y (mod 4) を満たすなら、 ix = iy が成り立つ。なぜなら i は 1 の原始4乗根なので i4 = 1 であり、 ix の値は x を 4 で割った余りによって(より一般的に言えば mod 4 での剰余によって)決まる。本文の議論は x = A + B, y = [(m − 1)/2]2 = (m − 1)2/4 に当たる。
![]()
2026-04-27 ガウス和とヤコビ記号・後編
m を正の奇数、 h を m と互いに素な整数とする。命題7〘ⅰ〙の主張は:
S(h, m) = (h/m)⋅S(1, m) = (h/m)⋅Jm⋅√m
という関係が、 m が奇素数のとき(命題5)だけでなく、 m が任意の奇数のときにも成り立つ――というもの。ここで Jm は「実数か純虚数か?」のセレクター: 法 4 で m ≡ 1 か m ≡ −1 かに応じて 1 ないし i に等しい。
すなわち、ガウス和 S(h, m) = ±Jm⋅√m の ± は、もし m が素数なら、 h が m の平方剰余か非剰余かに応じて――言い換えれば Legendre 記号 (h/m) の値が +1 か −1 かに応じて―― + ないし − になるが、もし m が素数でなくても、 Jacobi 記号 (h/m) の値が +1 か −1 かに応じて + ないし − になる。
これはすてきな命題だ! 例えば (2/3) = (2/5) = −1 だから (2/15) = +1、従って S(2, 15) = (+1)⋅i⋅√15 = i√15。いちいち合成数に関するガウス和の公式を使って分解・分析しなくても、 Jacobi 記号で一気に符号を決定できる。
理論面からすると、「平方剰余か非剰余か?」は「究極の区別」ではない。 m の素因子ごとに h の性質を考えたとき、非剰余があるとしても偶数個なら、符号はプラスに。 Jacobi 記号の符号は「平方剰余・非剰余」の区別とは必ずしも一致しないけど、むしろそのことによって、ガウス和の挙動との整合性が生じる。現象の性質をより深く考えるためのヒントが、そこにあるのかもしれない。
![]()
命題7〘ⅰ〙の証明 正の奇数 m に含まれる相異なる素因子の個数 N についての、帰納法による。土台となるケースとして、 N = 1 の場合、つまり m = pt の場合を考える(p は素数、 t は正の整数)。以下、常に h と m は互いに素、と仮定。
もし t が偶数なら、定理39を t/2 回適用して:
S(h, m) = S(h, pt) = p⋅S(h, pt−2) = p2⋅S(h, pt−4) = ··· = pt/2⋅S(h, p0)
= √m × S(h, 1) = √m
最後の等号は S(h, 1) = exp [02⋅2πih/1] = 1 による。同じ結論は、定理35からも直ちに。さて、この √m は (h/m)⋅Jm⋅√m に等しい。なぜなら、仮定により r = √m = pt/2 は正の奇数で r × r = m を満たすので、 (h/r) が ±1 のどちらでも、
(h/m) = (h/r)(h/r) = {(h/r)}2 = 1
だし、 mod 4 において p が ≡ ±1 のどちらでも p2 ≡ 1 なので m = (p2)t/2 ≡ 1、従って Jm = 1。
一方、もし t が奇数なら、定理39を (t − 1)/2 回適用して:
S(h, m) = S(h, pt) = p⋅S(h, pt−2) = p2⋅S(h, pt−4) = ··· = p(t−1)/2⋅S(h, p1)
= p(t−1)/2 × S(h, p) = p(t−1)/2 × (h/p)⋅Jp⋅√p = (h/p)⋅Jp⋅√m
最後の等号は p(t−1)/2 × √p = p(t−1)/2⋅p1/2 = pt/2 = m1/2 による(同じ結論は、定理37からも直ちに)。 m = pm′, m′ = pt−1 と置くと、 m′ は p の偶数乗なので、 t が偶数のときと同様の議論から:
(h/m′) = 1 かつ m′ ≡ 1 (mod 4)
∴ (h/p) = (h/p)(h/m′) = (h/m) かつ m = pm′ ≡ p (mod 4)
従って、上で得た等式 S(h, m) = (h/p)⋅Jp⋅√m の右辺は (h/m)⋅Jm⋅√m に等しい。(この議論は t = 1 の場合にも有効だが、その場合には m = p なので、この議論がなくても直ちに同じ結論に。)
要約すると、 m が 1 種類だけの素数を含む場合(m = pt)には、 t が偶数でも奇数でも、命題
S(h, m) = (h/m)⋅Jm⋅√m (✽)
は正しい。
今、帰納法による証明を完成させるため、「m がちょうど N 個の相異なる素数を含む場合には、命題は正しい」と仮定して、「m がちょうど N + 1 個の相異なる素数を含む場合にも、命題は正しい」ことを示そう。 m を「ちょうど N 個の相異なる素数」を含む奇数、 q を「m と互いに素な素数または素数べき」とする。命題3から:
S(h, mq) = S(hm, q) S(hq, m)
q についての仮定から、上記の右辺・第1因子について命題(✽)が成り立つことは証明済み。しかも、帰納法の仮定から、第2因子についても(✽)が成り立つ。従って:
S(h, mq) = (hm/q)⋅Jq⋅√q × (hq/m)⋅Jm⋅√m
= (h/q)(m/q)⋅Jq⋅√q × (h/m)(q/m)⋅Jm⋅√m
= (h/q)(h/m) × Jm⋅Jq⋅(m/q)(q/m) × √m⋅√q
= (h/(mq)) × Jm⋅Jq⋅(m/q)(q/m) × √(mq) ‥‥⓫
ここで Jm⋅Jq = i(m−1)2/4⋅i(q−1)2/4 と書くことができる。 Jm⋅Jq = iA と置くと:
A = ((m − 1)/2)2 + ((q − 1)/2)2
さらに Jacobi 記号の相互法則から (m/q)(q/m) = (−1)(m−1)(q−1)/4 であり、この整数(±1)を = iB と置くと:
B = 2((m − 1)/2)((q − 1)/2)
従って、
A + B = ((m − 1)/2 + (q − 1)/2)2 ‥‥⓬
は Jm⋅Jq⋅(m/q)(q/m) = iA+B を満たす。
⓫以下の議論は、命題7〘ⅱ〙の証明の❿以下とほとんど同じで、その先も同様に進めることができる。
すなわち m − 1 と q − 1 はどちらも偶数なので:
mq = [(m − 1) + 1][(q − 1) + 1] ≡ (m − 1) + (q − 1) + 1 (mod 4)
∴ mq − 1 ≡ (m − 1) + (q − 1) (mod 4)
この合同式の両辺を 2 で割って平方することにより A + B ≡ (mq − 1)2/4 (mod 4) が導かれ、よって iA+B = Jmq が成り立つ。ゆえに⓫は、「N + 1 種類の素数の積 mq も、それをあらためて m と置くなら(✽)を満たす」ということを含意し、証明完了。
けれど、ここではそのトリックを使わず、場合分けによる実直な方法(by Hua)で証明を完成させる。最終的な i の肩の指数⓬は、
A + B = C = ((m + q)/2 − 1)2
に等しい。もし mod 4 において m ≡ q ≡ ±1 なら m + q ≡ ±2 (mod 4)、従って (m + q)/2 ≡ ±1 (mod 2) なので
(m + q)/2 − 1 ≡ 0 or −2 (mod 2)
であり、いずれにしても C ≡ 0 (mod 4)、ゆえに iC = 1。仮定から mq ≡ 1 (mod 4) なので、この iC = 1 は Jmq と一致する。一方、もし mod 4 において m ≢ q なら、 m, q の一方は ≡ 1 で他方は ≡ −1 なので m + q ≡ 0、従って
(m + q)/2 − 1 ≡ −1 (mod 2)
であり、 C ≡ 1 (mod 4)、ゆえに iC = i。仮定から mq ≡ −1 (mod 4) なので、この iC = i は Jmq と一致。結局、 mq が mod 4 において ≡ 1 か ≡ −1 かに応じて、 √(mq) は 1 倍ないし i 倍される(Jacobi 記号による ± の符号とは別問題として)。∎
この証明は Hua [3], pp. 166–167†, Theorem 5.6 に基づく。
† 原書初版(1957年・中国語)の183ページでは、 S(n, mm′) = から始まる式の4行目において、 i の指数 ((m − 1)/2)2 + ((m′ − 1)/2)2 の一つ目の「2乗」が抜けている(この m′ は、われわれの q に当たる)。英訳(1982年)の167ページでも、この脱字を含む式がそのまま「コピペ」されている。2010年、選集(中国語)に再録されたとき、この誤植は修正された。
![]()
2026-05-01 ヤコビ記号について
(2/7) のような記号は、普通の分数 2/7 とは意味が違う。
実は (2/7) は 1 に等しい。
本当は分数じゃないけど、便宜上、「上」の数を「分子」、「下」の数を「分母」と呼ぶことにしよう。

「分母」が 3 以上の素数(自分自身と 1 以外では割り切れない数)の場合、とりあえずその素数の半分(端数切り捨て)を考えてみる。上の例では「分母」の 7 は素数なんで、その半分は 3.5、端数を切り捨てると 3。で、その個数(この例では 3 個)だけ「分子」の数を並べて、それらの積を求めると…
2 × 2 × 2 = 8
要するに 23 = 8 ってことだが、もしこの積(累乗)が「分母」の倍数より 1 大きければ(言い換えれば、その数を「分母」で割ると 1 余るなら)、最初のような記号の値は 1。 (2/7) の例では 8 を 7 で割ると 1 余るから、値は 1 だよ、と。
一方、もしそれが「分母」の倍数より 1 小さければ、記号の値は −1。例えば (3/7) の場合、
3 × 3 × 3 = 27
は 7 の倍数 28 より 1 小さいから (3/7) = −1 となる。
計算の仕方は(原理的には)簡単だが、それだけ聞いても、訳の分からん記号だ――そんな数値が、一体何の役に立つのか。この記号の真意について略述してから、「分母」が素数以外の奇数の場合への拡張(Jacobi 記号)について考えてみたい。
![]()
(2/7) = 1 という値は、普通の分数 2/7 ではないけど、分数(割り算)とまるで無関係ってわけでもない。上述のように、
23/7 = 8/7
という割り算と関係ある。 8 を 7 で割ると 1 余るから (2/7) = 1 だよ、っと。同様に、 (3/7) = −1 という値は、
33/7 = 27/7
という割り算と関係ある。単純に考えると、 27 を 7 で割ったら 6 余るのだから = 6 となりそうだけど、この場合、「6 余る」と考える代わりに、「割り切れるためには 1 足りない」つまり「−1 余る」と解釈して = −1 とする。
より一般的に p が 3 以上の素数で d が p の倍数ではない整数のとき:
(d/p) は d(p−1)/2/p という割り算と関係ある。
3 以上の素数 p は 2 では割り切れない(つまり奇数。そのことは「1 と自分自身以外の数では割り切れない」という素数の定義から明白)。だから p/2 は割り切れないけど、 p − 1 なら偶数なので 2 で割り切れる。その商 (p − 1)/2 が、上記の定義において d の指数になっている。(p − 1)/2 と表現する代わりに、「p を 2 で割って端数を切り捨てる」と言ってもいい。
もし d(p−1)/2/p という割り算で 1 が余るなら(つまり分子が p の倍数より 1 大きいなら)、 (d/p) = 1 とする。一方、もし同じ割り算の結果 p − 1 が余るなら(つまり分子が p の倍数より 1 小さいなら)、 (d/p) = −1 とする。
この記号は、フランスのルジャンドル(Legendre)によって導入された。
定義 p を 3 以上の素数とする。 Legendre 記号 (d/p) は:
d の「p の半分」乗(p の半分の端数は切り捨て)、言い換えれば d の (p − 1)/2 乗が、
p の倍数より 1 大きいか 1 小さいか?に応じて
+1 ないし −1 の値を持つ。
〔例1〕 (5/7) の値は、 53 が 7 の倍数より 1 大きければ +1 で、 7 の倍数より 1 小さければ −1。ここで 53 の指数 3 は p = 7 の半分(端数切り捨て)。 53 = 125 は 7 の倍数 126 より 1 小さいから、 (5/7) = −1。
〔例2〕 (−3/13) の値は、 (−3)6 が 13 の倍数より 1 大きければ +1 で、 13 の倍数より 1 小さければ −1。ここで (−3)6 の指数 6 は p = 13 の半分(端数切り捨て)。 (−3)6 = 729 は 13 の倍数 728 (= 13 × 56) より 1 大きいから、 (−3/13) = 1。
![]()
d が p の倍数の場合を別にすると、 Legendre 記号は、必ず +1 または −1 の値を持つ【※補足4】。もし Legendre 記号の値が +1 なら x2 ≡ d (mod p) は解(整数解)を持ち、もし Legendre 記号の値が −1 なら、同じ方程式は解を持たない【※補足5】。
例えば (2/7) = 1 という事実は、
x2 ≡ 2 (mod 7)
に解がある、ということを含意する――この方程式の意味は「x の平方は、 7 の倍数より 2 大きい」(言い換えれば 7 で割ると 2 余る)。果たして x = 3 のとき、 x2 = 9 を 7 で割ると 2 余るので、 x = 3 は一つの解。もちろん x = −3 も解(普通の整数の世界で x2 = 9 が二つの解 x = ±3 を持つのと同様)。
一方、例えば (3/7) = −1 という事実は、
x2 ≡ 3 (mod 7)
に解がない、ということを含意する。実際 mod 7 は「7 で割った余りで整数が分類される世界」なので、その世界には、本質的には 0, 1, 2, 3, 4, 5, 6 の 7 種類の数しかない。そのどれを平方しても、 7 の倍数より 3 大きい数は出てこない(容易に直接確認可能)。
要するに Legendre 記号は、普通の数の世界における「2次方程式の判別式」と似た働きを持つ。
普通の(係数が実数の)2次方程式は、もし判別式が正なら実数解を二つ持ち、判別式が負なら実数解を持たない。同様に、2次の合同式 x2 ≡ d (mod p) は、もし Legendre 記号が +1 なら2種類の解を持ち、 Legendre 記号が −1 なら解を持たない。
与えられた整数 d について、もし x2 ≡ d (mod p) が解を持つなら、その d は大ざっぱに言えば「何かの平方」であり「平方数」。正確な用語としては、そのような d は mod p の平方剰余と呼ばれる。一方、もし x2 ≡ d (mod p) が解を持たないなら、そのような d は「非平方数」であり、 mod p の平方非剰余(略して非剰余)と呼ばれる。 d が p の倍数ではないという前提において、 Legendre 記号 (d/p) の値が +1 か −1 か?という区別は、 d が mod p の平方剰余か非剰余か?という区別と対応している。
![]()
さて、前述のように (d/p) の値は、 d(p−1)/2 が p の倍数より 1 大きいか 1 小さいかに応じて 1 ないし −1 となるのだが、一般には、この定義通りに計算するのは、便利ではない。 d, p がほんのちょっと大きくなると(たった 2 桁程度でも)、手に負えなくなってくる。例えば、
x2 ≡ 12340 (mod 41) ‥‥⓵
に解があるかないかを判定するには(41 は素数)、 Legendre 記号
(12340/41)
の値を調べればいいのだが、ばか正直に 1234020 を計算して(結果は、ざっと 80 桁の巨大整数)それを 41 で割り算するのは、少なくとも筆算には向かない。 mod 41 においては、全ての整数は 41 で割った余りで分類されるのだから(そして 41 × 300 = 12300 なので)、とりあえず 12340 ≡ 40 (mod 41) と簡約することができ、⓵は
x2 ≡ 40 (mod 41)
と同値。 40 ≡ −1 (mod 41) でもあるから、単に
x2 ≡ −1 (mod 41) ‥‥⓶
を考えてもいい。同じことを Legendre 記号で表現すれば:
(12340/41) = (40/41) = (−1/41)
しかも (−1/p) の値は、素数 p が 4 の倍数より 1 大きいか 1 小さいかに応じて +1 ないし −1 である(この性質は、第一補充法則と呼ばれる)。すなわち p が 4 の倍数より 1 大きいなら −1 は mod p の平方剰余。 p = 41 はこの条件を満たすので、⓶には解が存在しなければならない。事実 x = ±9 は⓶を満たす(その平方 81 は 41 の倍数より 1 小さい)。
この例からも分かるように、 Legendre 記号の「分母」の素数や「分子」の絶対値が大きい場合、 Legendre 記号の性質を利用してそれらが小さくなるように変形すれば、計算量を大幅に削減できる。
ステップ1 上述のように a ≡ b (mod p) なら、
(a/p) = (b/p)
が成り立つので、もし「分子」の絶対値が「分母」より大きいなら、とりあえず「分子」を「分子を分母で割った余り」で置き換えて(あるいは最小絶対剰余で置き換えて)、「分子」の絶対値を「分母」より小さくすることが最初の一歩として役立つだろう。
ステップ2 d = ab と分解できる場合、
(d/p) = (a/p)(b/p)
が成り立つ。この性質を(必要なら繰り返して)使うことにより、「分子」を因子ごとに処理可能。「分子」が因子 −1 または 2 を持つ場合、この方法でそれを分離して補充法則で処理すれば、必ず正の奇数の「分子」だけが残る。 Legendre 記号の場合、正の奇素数にまで分解する必要がある(Jacobi 記号を使えば、素因数分解は必須ではない)。
ステップ3 「分母」自体が大きい場合、そうやって「分子」を「分母」より小さい素数(あるいは奇数)にできたとしても、依然として問題があまり簡単にならない。その場合の突破口となるのが、平方剰余の相互法則。すなわち p, q が相異なる奇素数のとき、
(p/q) = (−1)(p−1)(q−1)/4⋅(q/p)
が成り立つ。この法則は、見掛けは複雑そうだが、内容は簡単で、 (p/q) を計算しなければならない場合に、代わりに「分子」と「分母」をひっくり返した (q/p) を計算すればいい、という意味――ただし、素数 p, q が両方とも 4 の倍数より 3 大きいときに限っては、ひっくり返すと Legendre 記号の符号が変わってしまうので、符号を元通りにするために −1 倍して、
(p/q) = −(q/p)
としなければならない。それ以外の場合には、単純にひっくり返して、
(p/q) = (q/p)
としていい。(Jacobi 記号の場合、 p, q は素数でなくてもいい。)
これで「分数」がひっくり返って、大きかった「分母」が「分子」の立場になるので、ステップ1に戻って、さらに数値を小さくできる。このループを繰り返せば、そのうち「定義通りに直接計算しても苦にならない」ような簡単な形になるだろう。相互法則の他、次の補充法則が適宜、活用される。
第一補充法則 (−1/p) = (−1)(p−1)/2
第二補充法則 (2/p) = (−1)(p2−1)/8
式の形で書くと真意が分かりにくいけど、前者は「p が 4 の倍数より 1 大きいか 1 小さいかに応じて、 −1 は mod p の平方剰余ないし非剰余」という意味、後者は「p が 8 の倍数 ±1 か ±3 かに応じて、 2 は mod p の平方剰余ないし非剰余」という意味。
平方剰余の相互法則と補充法則については、いろいろな証明法をあちこちで記しているので(ほとんどの数論の教科書に載っていることでもあるので)、ここでは証明を繰り返さない。以下のテーマは、これらの法則の Jacobi 記号バージョンの証明。
![]()
正の奇数 m が N 個の(必ずしも相異ならない)素数 p1, p2, ···, pN の積に分解されるとする(N ≥ 1)。このとき、 m と互いに素な任意の整数 d について、
(d/m) = (d/p1)(d/p2)···(d/pN)
と定義する。ここで右辺は N 個の Legendre 記号の積。左辺の (d/m) を Jacobi 記号と呼ぶ。もし m 自身が素数なら(N = 1)、 Jacobi 記号 (d/m) は、同じ形の Legendre 記号とも解釈可能。一方、もし m が合成数なら(N ≥ 2)、 (d/m) は Legendre 記号ではあり得ない(Legendre 記号 は「分母」が 3 以上の素数の場合にしか定義されないので)。以下では Legendre 記号と Jacobi 記号のどちらを使っているのか、明記しないこともある――「分母」が 3 以上の素数ならどちらと考えてもよく、「分母」が正の奇数の合成数なら、自動的に Jacobi 記号となる。
Jacobi 記号の定義から直ちに明らかなこととして、奇数 m が = PQ のとき(P, Q は素数でも合成数でもいい)、
(d/m) = (d/(PQ)) = (d/P)(d/Q)
が成り立つ(m = PQR 等、因子の数が 3 個以上でも同様)。さらに d = AB のとき、
(d/m) = (AB/m) = (A/m)(B/m)
が成り立つ――このことは、 Legendre 記号の同様の性質から、容易に導かれる(d = ABC 等、因子の数が 3 個以上でも同様)。すなわち、「分子」を固定すると「分母」は乗法的、「分母」を固定すると「分子」は乗法的。
Jacobi 記号の定義は、本質的にはシンプル。例えば 15 = 3⋅5 なので、
(2/15) = (2/3)(2/5)
となり、この右辺の二つの Legendre 記号はどちらも −1 に等しいので:
(2/15) = (−1)(−1) = 1
注意点として、 m が素数以外の場合、 (d/m) の値が 1 か −1 かという区別は、 x2 ≡ d (mod m) が解を持つか持たないかの区別と、完全には対応しない。値が −1 なら d は mod m の非剰余、という点では Jacobi 記号は Legendre 記号と同様だが、他方において、値が +1 だからといって d が mod m の平方剰余とは限らない。例えば、上記のように (2/15) = 1 ではあるが、
x2 ≡ 2 (mod 15)
は解を持たない。実際、もしもこの式が解を持つとしたら、
x2 ≡ 2 (mod 3) と x2 = 2 (mod 5)
のどちらも解を持つはずだが、それは事実に反する(これら二つの式に対応する Legendre 記号の値は、どちらも −1)。
Jacobi 記号の値を定義する N 個の Legendre 記号が、全て +1 に等しいとき、 x2 ≡ d (mod m) は解を持つ。 N 個の Legendre 記号の中に値が −1 のものが 1 個でもある場合、その個数が偶数か奇数かに応じて Jacobi 記号の値は +1 ないし −1 になるが、どちらのケースでも d は mod m の非剰余。
さらに、 Legendre 記号と違って d(m−1)/2 (mod m) によって直接計算することもできない。
こうした点を考えると、 Jacobi 記号の意義・理論的位置付けについて、多少の疑念が生じる―― Legendre 記号の拡張なら、単純に考えて「平方剰余のとき +1、非剰余のとき −1」と値を定義するのが筋ではないか?
実は Jacobi 記号は、当初の Legendre 記号と違い、必ずしも「平方剰余・非剰余の判定のためのツール」というわけではない(その判定にも使えるが)。 Jacobi 記号の本質は、もう少し深いところにある(例えば、ガウス和との密接な関係においては、 Jacobi 記号の持つ奥深さが感じられる)。その「奥義」についてはひとまず保留し、以下では「形から入る」――Jacobi 記号が、形式的には Legendre 記号と全く同じ相互法則・補充法則を満たすことを証明したい。
![]()
次の補助命題が役立つ。
命題8 a, b がどちらも奇数なら:
(ab − 1)/2 と (a − 1)/2 + (b − 1)/2
は、偶奇が一致する。従って、これら二つの数を x と y とすると、 (−1)x = (−1)y が成り立つ。
〔例1〕 a = 5, b = 7 のとき (ab − 1)/2 = 34/2 = 17 と (a − 1)/2 + (b − 1)/2 = 4/2 + 6/2 = 5 は、どちらも奇数。
〔例2〕 a = 5, b = 9 のとき (ab − 1)/2 = 44/2 = 22 と (a − 1)/2 + (b − 1)/2 = 4/2 + 8/2 = 6 は、どちらも偶数。
証明 仮定により a − 1 と b − 1 はどちらも偶数なので、両者の積は 4 の倍数:
(a − 1)(b − 1) = ab − a − b + 1 ≡ 0 (mod 4)
∴ ab ≡ a + b − 1 (mod 4)
∴ ab − 1 ≡ (a − 1) + (b − 1) (mod 4)
両辺を 2 で割って、
(ab − 1)/2 ≡ (a − 1)/2 + (b − 1)/2 (mod 2)
を得る。∎
![]()
命題9(Jacobi 記号の第一補充法則) m が 3 以上の奇数(素数とは限らない)なら:
(−1/m) = (−1)(m−1)/2
証明 m が素数なら、これは Legendre 記号版の第一補充法則であり、証明すべきことは何もない。 m = pq が二つの素数の積なら:
(−1/m) = (−1/p)(−1/q) = (−1)(p−1)/2⋅(−1)(q−1)/2 = (−1)(p−1)/2+(q−1)/2
第一の等号は Jacobi 記号の定義により、第二の等号は Legendre 記号版の第一補充法則による。この最右辺は、命題8から
(−1)(pq−1)/2 つまり (−1)(m−1)/2
に等しい(仮定により m は奇数なので、 p, q はどちらも偶数ではない)。すなわち m が 2 個の素数の積のとき、命題9は正しい。
今、帰納法により証明を完成させるため、 m が N 個の素数の積のときには命題9は正しい、と仮定する。 p を素数、 q を N 個の素数の積とすると、 m = pq について、上記の議論を(帰納法の仮定を使って)そのまま反復できる。ゆえに m が N + 1 個の素数の積のときにも、命題9は正しい。∎
![]()
命題10(Jacobi 記号の第二補充法則) m が 3 以上の奇数(素数とは限らない)なら:
(2/m) = (−1)(m2−1)/8
証明 命題9と同様に、 Legendre 記号版に帰着させることができる。ただし、命題8の代わりに、次の補題を使う。「a, b がどちらも奇数なら、
((ab)2 − 1)/2 と (a2 − 1)/2 + (b2 − 1)/2
は、偶奇が一致する」。その証明は次の通り。奇数の平方は 8 の倍数より 1 大きいので、 a2 − 1 と b2 − 1 はどちらも 8 の倍数、従って両者の積は 64 の倍数:
(a2 − 1)(b2 − 1) = a2b2 − a2 − b2 + 1 ≡ 0 (mod 64)
∴ a2b2 ≡ a2 + b2 − 1 (mod 64)
∴ a2b2 − 1 ≡ (a2 − 1) + (b2 − 1) (mod 64)
両辺を 8 で割って、
(a2b2 − 1)/8 ≡ (a2 − 1)/8 + (b2 − 1)/8 (mod 8)
を得る。∎
最後の合同式の目的は「両辺の偶奇の一致」を示すことなので、 mod 8 で考える必然性はなく、 mod 2 で足りる。この点を「必要十分ぴったり」にしたければ、「両者の積は 64 の倍数」という主張に続けて「従って 16 の倍数」と記し、 mod 64 の代わりに mod 16 にすればいい。
![]()
命題11(Jacobi 記号の相互法則) ℓ, m がどちらも 3 以上の奇数(素数とは限らない)で互いに素なら:
(ℓ/m)(m/ℓ) = (−1)(ℓ−1)(m−1)/4
証明 最初のうち ℓ を 3 以上の素数と仮定する。もし m も 3 以上の素数なら、命題は平方剰余の相互法則そのもので、証明すべきことは何もない。 m = pq を二つの素数の積としよう。そのとき:
(ℓ/m)(m/ℓ) = (ℓ/(pq))((pq)/ℓ) = (ℓ/p)(ℓ/q)(p/ℓ)(q/ℓ)
= (ℓ/p)(p/ℓ) × (ℓ/q)(q/ℓ) = (−1)(ℓ−1)(p−1)/4 × (−1)(ℓ−1)(q−1)/4
上記・最右辺の積を = (−1)A とすると:
A = [(ℓ − 1)/2]⋅[(p − 1)/2] + [(ℓ − 1)/2]⋅[(q − 1)/2]
= [(ℓ − 1)/2]⋅{(p − 1)/2 + (q − 1)/2}
この { } 内は、命題8により (pq − 1)/2 つまり (m − 1)/2 と偶奇が一致。ゆえに、
(−1)A = (−1)(ℓ−1)(m−1)/4
となり、 m が 2 個の素数の積のとき、命題11は正しい――その事実を土台に、命題9の証明と同様の帰納法を使うと、 m が 3 個以上の素数の積のときにも、命題11が正しいことが示される(「ℓ は素数」という仮定の下で)。
すなわち ℓ, m の一方が素数の場合、命題11は真。
そのことを念頭に、 ℓ を 3 以上の奇数(素数とは限らない)、 m = pq を二つの素数の積として、上記の議論を反復すると、「m が 2 個の素数の積のとき、命題11は成り立つ」という結論に至る(「ℓ は素数」という仮定なしに)。帰納法により、 m が 3 個以上の素数の積のときにも、同じ結論が成り立つ。∎
![]()
Legendre 記号をこのように拡張するというアイデアは、ドイツ(プロイセン)のカール・グスタフ・ヤーコプ・ヤコービ(Carl Gustav Jacob Jacobi†)によって Bericht … Preussischen Akademie (1837) において発表され‡、その論文は Crelle, Bd. 30 (1846) にも再録¶された。 Dirichlet–Dedekind (1863, 1871, 1879, 1894) の§46、高木 (1931, 1971) の§14参照[83ページ下から6行目の指数 (p−1)/2⋅(p−1)/2 は (p−1)/2⋅(q−1)/2 の誤植]。 Jacobi 記号には、依然として「分母」が偶数になれない、といった制約がある。この制約を取っ払って、さらに拡張したのが Kronecker 記号。
これらの拡張の真意は直ちに明らかではないけど、歴史的には「便利な計算法」という実用的側面と、「理論的研究のためのツール」という側面が共存していたようだし、現在でもその二面性があると思われる。
† ドイツ語では Jacob の Ja と Jacobi の co に強勢があり、それらの母音は長い。語末の -v, -b は無声音([f], [p])。
‡ https://digilib.bbaw.de/digilib/digilib.html?fn=/silo10/Bibliothek.tiff/08-verh/1837/tif&pn=128
134–135ページ参照
¶ https://gdz.sub.uni-goettingen.de/id/PPN243919689_0030?tify=%7B%22pages%22%3A%5B172%5D%2C%22view%22%3A%22%22%7D
172–173ページ参照
![]()
【※補足4】 Fermat の小定理から dp−1 ≡ 1 (mod p) なので、 y ≡ d(p−1)/2 と置くと y2 ≡ dp−1 ≡ 1 (mod p)。ゆえに y ≡ ±1。
【※補足5】 mod p において ɡ を原始根とし、 d ≡ ɡa とする。このとき d(p−1)/2 ≡ (ɡa)(p−1)/2 ≡ ɡa(p−1)/2 は、 a が偶数か奇数かに応じて ≡ 1 ないし ≢ 1。なぜなら指数 a(p−1)/2 は、 a が偶数なら ɡ の位数 p − 1 の倍数だが、 a が奇数なら ɡ の位数の倍数ではない。その区別と対応して、 a が偶数なら x ≡ ɡa/2 は x2 ≡ d を満たし(従って d は平方剰余)、 a が奇数なら同様の性質を持つ x は存在しない(従って d は非剰余)。
『遊びの数論59』へ続く。